めざせポケモンマスター - 2/9

「ちょっとマユカ。支度にいつまで時間かけるつもり?」
「んー、もうちょっと……」
 鏡とにらめっこしながら、マユカは肩まで伸ばした髪をツインテールに結い上げる。
「これで良し!」
「良くないわよ。歪んでる。あなたはいつになったら髪をちゃんと結えるようになるの?」
 マユカの母は呆れた顔でため息をつくと、ツインテールの片方を手早く結い直す。
 仕上げに、ヘアゴムの双葉の飾りの位置を直すと、
「これでよし。これから全部一人でやらなきゃいけないのよ? ほんと大丈夫かしら……」
「パパもママも心配しすぎだって。マユカだってもう十歳なんだから、なにかあってもだいじょーぶ」
「――わ・た・し」
 母は腰に手を当て、
「いいかげん、自分のこと名前で呼ぶのやめなさい。子供っぽいわよ」
「はーい」
 マユカはリュックを背負い、部屋を出る。一階に下りると、母のポッチャマが駆け寄ってきた。
「ポーチャ。ポチャポチャ」
「あ」
 ポッチャマが持ってきたネックストラップ付きの携帯電話に、思わず胸元に手を当てる。ない。
「まったく、どこが大丈夫なのよ」
 母はポッチャマから携帯電話を受け取ると、マユカの首にかけ、
「ちゃんと首から提げときなさい。落とすんじゃないわよ」
「はーい」
『――ナ~エ~エ~!』
 その時、ガタガタと玄関のドアが揺れた。
 ドアを開けると、勢い余ってナエトルが転がり込んでくる。待ちくたびれて、呼びに来たらしい。
 マユカはナエトルを抱き上げ、外に出ると、
「ごめんごめん、お待たせ~。あなたは今日からマユカのポケモンよ。これからよろしくね」
「ナエ、ナ~エ!」
 マユカに気づき、庭で新品の自転車の具合を確認していた父はうなだれた様子で、
「……もう準備が出来たのか」
「『やっと』よ! 出発の時間、とっくに過ぎてるじゃない!」
 続けて出てきた母が怒鳴るが、そんなことは無視して、
「マユカ、本当にこのナエトルで良かったのか? やっぱりヒコザルがいいなら、あと一年、いや、三年待ってくれれば用意出来るぞ」
「ヒコザル用意するのになんで三年もかかるのよ!? ナエトルでいいわよナエトルで!」
 最終確認というより、自分の願望を押しつけようとする旦那を怒鳴りつける。
 怒鳴りつけてから、マユカに目をやり、
「でも、どうしてナエトル?」
「昔から決めてたの。パパと同じポケモンで旅に出るって」
「あら。ママと同じポケモンじゃ嫌だったわけ?」
「ポッチャマは見飽きたからもういい」
「ポチャ!?」
 子供の素直で残酷な言葉に、ポッチャマは傷ついた顔をした。
「ところでパパ、マユカのポケモン図鑑は?」
「それならここにあるが……」
 父はポケモン図鑑を出し――受け取ろうとしたマユカの手をかわすと、
「別に今日じゃなくても、明日でもあさってでも一年後でもいいんだぞ?」
「いつまでも旅立てないでしょ! 今日と言ったら今日行く!」
 母が図鑑を奪い取ると、マユカに渡す。
「マユカに一人旅は早い……」
「私もあなたも、このくらいの年で旅に出たでしょ! そのくせ、娘には旅に出るなって言うわけ!?」
「せめて、今日のフタバ祭りが終わってからでも……」
「毎年見てるから、今年はいーよ。それよりパパ、今日はがんばってね」
「…………」
 寂しそうに肩を落とす旦那の姿に、母――ヒカリはため息をつき、

 ――いつからこうなっちゃったのかしら……

 ぬるい。あまりにぬるすぎる。
 だんだん、旅立つ娘より置いてかれる父親のほうが心配になってきた。
 しかし、親も子離れしなくてはならない。ヒカリは心を鬼にして、
「さあ、準備は整ったんだし、さっさと行きなさい。今日は私達も忙しいんだから」
「はーい」
「本当に大丈夫なのか? いくらポケモンと一緒とはいえ、やはり危険――」
「だいじょーぶだって! ナエトル!」
「ナエ?」
 置いてけぼりにされていたナエトルは、呼ばれて顔を上げると、
「今日は絶好のソーラービームびよりよ!  景気づけに『アレ』やって!」
「ナ~エッ!」
 その言葉に、ナエトルの頭の双葉に光が集まり――

 ――ゴッ!

 『ソーラービーム』が、空に向かって放たれた。ビームは雲を突き抜け、はるか彼方へと消えていく。
「うん、いいビーム! さっすがチャンピオンの子!」
 そして、両親に振り返ると、
「ね~。こんだけ強いんだから、なにがあってもだいじょーぶ!」
 そう言い放つ娘に、ヒカリがずっこけた。
「ちょっとあなた……」
 そして隣の旦那に詰め寄ると、
「あのナエトル! いつの間に『ソーラービーム』覚えたのよ!? いつ教えたの!?」
「マユカが『このナエトルが欲しい』と言ってからだ」
「ずいぶん前からじゃない! 新人用のポケモンをあなたが育ててどうするのよ!?」
「我が子に強いポケモンを持たせたいというのが親心だろう!」
「一緒に強くなるから意味があるの! その機会をあなたが奪って――」
「それじゃ、行ってきまーす」
 マユカはピンクの自転車にまたがり、口論する両親の横を通り過ぎる。
「マユカ! 知らないヤツにホイホイついて行くんじゃないぞ! なにかあったら警察に通報するんだぞ!?」
「あ、マサゴタウンに着いたら、ナナカマド研究所にあいさつに行くのよー!」
「はーい」
 振り返りもせず軽く返事すると、ペダルをこぐ足に力を入れた。

 そうして生まれ育った町から旅立ち、半日を過ぎた頃――
 マユカとナエトルの眼前には、夕日に照らされ、きらめく海が広がっていた。
「きれいだね~ナエトル」
「ナエッ」
 抱きかかえたナエトルも、海を見ながらうなずく。
 一人と一匹でまったりと海を眺めていると、首から提げた携帯電話が着信音を奏でた。
「パパからだ」
 時間的に、フタバ祭りのメインであるバトル大会の終盤だろう。
「もしもーし」
『マユカ、旅は順調か?』
「もう順調順調! とっくにマサゴタウンも抜けて、クロガネシティに向かってるとこ」
『そうか、クロガネシティ……』
 そして、父は一瞬沈黙すると、
『なら、お前の携帯のGPSが海の上を指しているのはどういうことだ……?』
「…………」
『ナナカマド研究所にも問い合わせたが、誰も来なかったと言っていたが……』
「…………」
『…………』
 その時、『ピンポンパンポ~ン』とお知らせのチャイムが鳴った。
『えー、当船は間もなくクチバ港に到着します。お降りのお客様は――』
 ぷつっ、と、マユカは携帯電話の通話ボタンを切った。
 即座に携帯電話は二度目の着信音を奏でたが、電源を切って黙らせる。
「ナエエ?」
「さ~て、準備準備……」
 床に置いていたリュックを背負い、地図を確認する。
 地図には、クチバシティからハナダシティに繋がる道に印がつけてあった。

「この道をまっすぐ行けばハナダシティ。自転車ならすぐだよ。それじゃあ、気をつけてね」
「はい。ありがとうございます!」
 軽トラックの荷台から自転車を下ろし、運転手のおばちゃんを見送る。
「思ったより早く着きそうだなぁ」
 夕べはクチバシティのポケモンセンターで一泊。そして数時間前、運よくハナダシティの方角に向かう軽トラックのヒッチハイクに成功した。
 徒歩や自転車なら数日かかるが、車なら二時間とかからない。これなら、昼過ぎにはハナダシティに到着するだろう。
「さてと。まずは腹ごしらえにしよっか」
「ナエ!」
 待ってましたと言わんばかりに、ナエトルが跳び上がる。
 適当な場所に腰を下ろすと、リュックからポケモンフーズと、コンビニで買っておいたジャムパンとミックスオレを取り出し、昼食にする。
 マユカはパンをほおばりながら、
「さすがのパパも、昨日の今日でもうこんなとこにいるなんて思わないよね。ま、どうせ今日は仕事だし――」
「ナエ」
「ん?」
 ナエトルにつられて顔を上げると、緑の丸いものが、ゆったりと空を飛んでいるのが見えた。
「あ! ポポッコ!」
 飛んでいたのはポポッコの群れだった。風に乗って、優雅に空を飛んでいる。
「そうだ! なんか物足りないと思ったら、ゲットもバトルもまだしてないじゃん! よーし、ナエトル!」
「ナエ?」
 マユカは残りのパンを口に入れ、ミックスオレで胃に流し込むと、
「ポポッコ、ゲットするわよ!」
「ナ、ナエ?」
 その言葉に、ナエトルは首を傾げる。ポポッコは空を飛んでいる。『はっぱカッター』は届かない。
 マユカは立ち上がると、
「向こうから来てもらうのよ! ナエトル、『ソーラービーム』!」
「ナエ!?」
「当てなくてもいいから、注意をひくのよ!」
「ナエ~……」
 ナエトルはためらったが――頭の双葉に、太陽の光を集める。
 天気は良好。さほど時間もかからず、エネルギーが溜まる。
 そして、ポポッコの群れがちょうどこちらの真上にさしかかったあたりで、
「発射ーーーーーーーーーー!」
「ナエーーーーーーーーーッ!」
 緑の光が、空に向かって放たれる。
『――ポポ~!?』
 突然の襲撃に、ポポッコの群れは混乱に陥った。
 隊列は崩れ、悲鳴が飛び交う。そして群れの中から、黄色いなにかが落下した。
「――ピッチューーーーーーーー!」
「へ?」

 ――べちっ。

 マユカの顔面に、小さななにかが貼り付いた。
「んえっ!? なに!? なにこれ!?」
 少なくともポポッコではない。
 振り払うとそれはあっさり離れ、地面に落ちる。黄色いポケモンだった。
 マユカはポケモン図鑑を開きながら、
「ピチュー!? なんで空から降ってきたのよ!?」
「ピチュー……」
 ピチュー本人も混乱しているのか、驚いたやら疲れたやら、困った顔をする。
「ひょっとして、さっきのポポッコに乗ってたの?」
「ピチュ?」
 ピチューは首を傾げる。
 一体、このピチューにどんないきさつがあったのかは知らない。
 しかし、そのクリクリしたつぶらな瞳、丸みを帯びた体、ピンクのほっぺ……
 とにもかくにも、
「かっわい~い! よーし、初ゲットはあなたに決めた!」
「ピチュ!?」
 勝手に決められ、ピチューは慌てて逃げ出す。
「あ! 待ってよー!」
 マユカは慌ててリュックを背負い、ナエトルを自転車の前カゴに乗せると、ピチューを追って自転車をこいだ。

「いい天気……」
 原っぱで、一人の少年がリザードと並んで寝そべっていた。近くには自転車が止められ、その足下にリュックが置かれている。
 不用心ではあるが、誰かが来ればまずリザードが気づく。このまま食後の昼寝に突入しても安心だろう。
 ナオトはそう判断し、まどろんでいると、
「……リザッ」
 突然、リザードが起きあがった。
「どうしたの?」
 リザードは周囲を見渡し――後ろの茂みに視線を止める。
 その方角に向かって耳をすますと、草がこすれる音と共に、声が聞こえた。
「――ッチューーーーーーーー!」
「!?」
 突然、茂みの中からなにかが飛び出し、勢い余ってナオトの顔面に貼り付いた。
「なに!? なんだ!?」
「リザッ!」
 どうやら小さなポケモンらしく、体をつかみ、引きはがす。
 貼り付いていたのは、
「……ピチュー?」
「ピ?」
 ピチューも我に返り、こちらの顔を見つめ、
「ピチュチュ――」
「――待てーーーーーーー!」
 その時、一台の暴走自転車が茂みを突き抜けてきた。
 乗っていた少女は、自転車にまたがったまま、
「動かないで! ピチューゲット!」
「ピッ!? ピチューーーーーーーッ!」
 つかんでいたピチューが、慌てて手から逃げ出す。
「へっ?」
 そして、ナオトの視界に入れ違いに入ってきたのは、迫るモンスターボールだった。

 ――ゴッ!

 目の前で星が飛び散った。
 体が宙に浮くような錯覚を覚えた。
 意識が遠のいた。
 そして、遅れて痛みがやってきた。
「リザザッ!? リザザー!」
 ……気がつくと、仰向けに倒れていた。驚いた顔のリザードが、肩を揺さぶっている。
「な……なにが……どうなって……」
「キャーーーーーー! なんであんたに当たるのよ!?」
「お前がボールを投げたからだーーーーーーーーっ!」
 がばっ! と起きあがり、全力で怒鳴る。
「なんなんだよ一体!? 人にぶつかる可能性も考えずにボール投げるとか何考えてんの!?」
「ピチュー! どこ行ったの~?」
「聞けよ人の話!」
 もはやナオトには目もくれず、少女は自転車から降り、逃がしたポケモンを捜し始める。
 すでにピチューの姿はなく、呼びかけにも反応しない。
 少女は地団駄を踏みながら、
「あーもう、逃げられたじゃない! どうしてくれんのよ!?」
「僕のせい!? その前に言うことあるだろ!」
「そうだ! ハナダシティってこの道でいいのかな?」
「『あやまれ』って言ってるんだ!」
「あ、ゴメン」
「全然悪いと思ってないだろ!」
 とことんマイペースな少女に、ますます逆上して怒鳴る。
 少女はピチューをあきらめたのか、ため息をつき、
「あーあ、初ゲットのチャンスだったのに」
「初ゲット?」
 ということはつまり、
「キミ、ひょっとして新人?」
「そうよ。フタバタウンから来たの」
「フタバタウン? まさかシンオウの?」
 たしか、父の友人が住んでいたような……
 そんなことはお構いなしに、少女はこちらを指さし、
「ところであんた、トレーナーね? ここで会ったのもなにかの縁だし、バトルしましょ!」
「僕、トレーナーじゃないよ」
「そこにリザードがいるじゃん!」
「うっ……」
 ボールから出しっぱなしにしていたことがあだとなった。
 ずいぶん切り替えの早い少女は、自転車の前カゴからナエトルを下ろすと、
「トレーナー同士、目が合ったらバトルの合図! 行くわよ、ナエトル!」
「ナエ?」
 トレーナーのテンションに対し、ナエトルのテンションは低そうだった。なんだかよくわかっていない感じだ。
 マユカはナエトルの背を押し、
「ほらほら、マユカ達の記念すべき初バトルよ。気合い入れて行きましょ!」
「いや、あのさ……」
 まだ、バトルを受けるとは言っていない。
 その上、
「僕、リザードしか持ってないんだけど」
「それが?」
「キミ、新人だろ? しかも草タイプだし。勝ち目ないよ」
「やってみなきゃわかんないわよ! それとも、負けるのがこわいの?」
「負けるとは思わないけど……」
 勝てるとでも思っているのだろうか?
 すでに疲れた顔をしているナエトルが気の毒に思えたが、もう運が悪かったと思うしかない。あきらめてリザードを前に出すと、
「それじゃ、お先にどうぞ」
 もうどうにでもなれという気分で、先行をゆずる。
「行くわよ! ナエトル、『はっぱカッター』!」
「ナエ……ナエッ!」
 ナエトルは頭の葉を大きく振り回し、『はっぱカッター』を放つ。
 ナオトは一言、
「燃やして」
「リザッ」
 リザードの口からかなり手加減された『かえんほうしゃ』が吐かれ、『はっぱカッター』をすべて焼き払う。
「だったら『たいあたり』よ!」
「ナエ~ッ!」
 ナエトルはリザードに向かって駆け出し――そして、
「リザード、止めて」
 リザードは片足を上げると、そのままナエトルの額に足を乗せた。足を乗せられたナエトルはがんばって前に進もうとするが、もがけばもがくほど体が反り上がり――

 こてんっ。

 そのまま、仰向けにひっくり返った。
「ナ~エ~ッ!」
 救いを求めるナエトルを、マユカは起こしてやりながら、
「もうっ! なにやってんのよー!」
「……この場合、ナエトルは悪くないと思うんだ」
 弱い。
 ポケモン自体もそうだが、なによりトレーナーに問題がある。
 ナオトはため息をつくと、
「はっきり言って話にならないね。キミ、おうちに帰ったほうがいいよ」
「なにそれ!? バカにしていられるのも今のうちなんだから! ナエトル、『ソーラービーム』!」
「えっ?」

 ――新人のナエトルが?

 一瞬、身構えたが――しかしナエトルは何もしなかった。
「ちょっとナエトル! 『ソーラービーム』!」
「ナ~エ」
 ぷいっ、と、ナエトルはそっぽを向く。

 もうイヤだ。

 そんな様子が見て取れた。
「もー! なんで言うこと聞いてくれないの!?」
「キミに嫌気が差したんじゃないの? 今も使えない技指示して」
「失礼ね! 家出る時、元気にぶっ放したわよ! チャンピオンのポケモンの子なのよ!?」
「チャンピオン?」
「そーよ。パパのドダイトスの娘。マユカとおんなじなんだよねー」
 マユカはナエトルを抱き上げ、頬を寄せる。
 シンオウ。フタバタウン。マユカにチャンピオン、パパのドダイトス……
 間違いない。

 会ったことがある。

「ん? なに?」
「別に……」
 幸い、本人は覚えていないらしい。そのことに安堵するが、いつ思い出すかわかったものではない。
 ナオトはそそくさと自転車に乗ると、
「それじゃあ、僕はこのへんで……」
「ちょっと! まだ勝負は途中よ!?」
「勝負はついたよ。不戦勝で僕の勝ち」
「さっきのはなし! 今度こそちゃんとやるから! ね、ナエトル」
「ナエ~……」
 マユカはやる気のないナエトルを下ろし、強引に戦場へと送り出す。
「まったく……相手の都合をちょっとは考えてよ」
 文句を言いつつ自転車から下りる。こうなったら、さっさと決着をつけてさっさと帰るしかない。
 ナエトルもそう思い直したのか、一度深呼吸すると、
「――ナエッ!」
 気合いを入れ、前に出る。
 ナオトもリザードを前に出し、
「そんじゃ、お先にどうぞ」
「よーし、本日は快晴! 絶好のソーラービーム日よりよ!」
 再び先行をゆずると、マユカは気合いの入った声で、
「ナエトル、今度こそ『ソーラービーム』!」
「ナーエーーーーーーーッ!」
 ナエトルの双葉に、一気に光が集まる。
「…………!?」
 予想以上に、エネルギーの充填が早い。
 そして、
「はっしゃーーーーーーーっ!」
「よけろ!」
 ナオトとリザードは慌てて左右に逃げ出し――

 ガシャーーーーーン!

「あっ」
「あっ……」
 『ソーラービーム』はナオトとリザードの後ろ――ナオトの自転車に見事命中し、一瞬でスクラップにした。

「だからゴメンってばー」
「…………」
 無言のまま、ロープで縛った自転車の残骸を引きずるナオトに、マユカは自転車を押しながらついていく。
「……なんでついてくるんだよ」
「だって、あんたのパパとママに、自転車のことあやまらなきゃ」
「ウチまでついてくるつもり!? 冗談じゃないよ! あやまんなくていいから、もうどっか行って! 来ないで! ついて来んな! あっち行け!」
「なによー。そこまで言うことないじゃない」
「人の自転車ぶっ壊しといて、そんなセリフよく言えるね! ママにどう説明すりゃいいんだよ!」
「だからマユカの自転車あげるって言ってるじゃない」
「そんな見るからに女の子用の自転車なんて乗れるわけないだろ!」
「もう! わかったわよ!」
 マユカはナオトを追い越すと、適当な場所に自転車を止める。
 そして、ナエトルと共に自転車から離れると、
「ナエトル! 『ソーラービーム』!」
「ナエーーーーーーッ!」

 ――ゴッ!

 マユカの自転車が、吹っ飛んだ。
「これでおあいこよ!」
 そう言って胸を張るマユカに、ナオトの目は点になった。