『おはよう、ナオト。昨日は大変だったね』
「おはようございます」
「ピーカチュー」
身支度を済ませ、ナオトが真っ先に電話をかけたのはオーキド研究所だった。
「あの、夕べ、博士も来てたんですよね?」
『まあね。と言っても、僕は車出しただけで、何もせずにとんぼ返りしちゃったけど』
そう言って、博士はモニタの向こう側で苦笑する。
『会ってから帰ろうと思ってたんだけど、寝ちゃってるしさー』
「……すいません」
『――ラーイ!』
突然、博士の横からライチュウが現れた。
「ピ?」
『ああ、チュチュだよ。わかる?』
「ピピ!?」
「あれ? 進化したんですか?」
『昨日、色々あってね……』
昨日は進化日和だったのだろうか。リザードはリザードンに、ピチューはピカチュウに。さらに母ピカチュウまでライチュウに進化しているとは思わなかった。
突然姿の変わった母にピカチュウは戸惑っていたが、ライチュウは娘の無事な姿に安心したのか、
『ラーイ! ライライ、ライチュ~! ライラーイ! ライライ!?』
「ピ、ピ~カ……」
心おきなく、電話越しに説教を始めた。姿は変わっても、中身は何一つ変わっていない母に安心したのか、ピカチュウは説教されながらも笑顔で返す。
『それにしても、きょうだいの中で一番甘ったれのお前が、一人でナオトのところまで行って、おまけに進化一番乗りか。やるなぁ』
「ピカ!」
ほめられ、ピカチュウは上機嫌に両手を挙げる。
「ところで博士、夕べ届けてくれたモンスターボール……」
『ああ、急いでたから、あの三体しか連れて行けなくてね』
「いや、そうじゃなくて」
『ナオトに返すよ』
博士はこちらの言葉をさえぎり、
『キミが『好きにしていい』って言ったから、好きにさせてもらったよ』
「でも……」
『他に転送して欲しいポケモンがいたら、また連絡するんだよ。じゃーねー』
『ライラーイ』
「…………」
説教をするでもなく。なにか言葉をかけるわけでもなく。
博士はライチュウと共に手を振り、あっさり通話を切ってしまった。まるでいつも通りだ。
「ピカチュ……」
寂しげな顔をするピカチュウの頭に手を置き、
「また今度、遊びに行こっか」
「ピカ!」
電話を終えリビングに行くと、母が遅めの朝食を用意していた。
「電話終わった?」
「うん」
うなずき、イスに座る。
「はい、ナオトにおみやげ」
朝食としてホットミルクと共に出されたのは、形の悪いカップケーキだった。
「昨日、おばあちゃんに教わって焼いたのよ。箱落としちゃったから、ちょっとつぶれてるけど」
「ホントだ。つぶれてる」
それを差し引いても元々の形が悪かったことが推測出来たが、それについては触れず、一口かじる。
祖母に教わったなら、少なくとも材料の配分は間違っていないはずだが――
「まあ、ママにしてはよく出来たほうじゃない? 固いし、粉がダマになってるけど」
「言ってくれるわね」
正直な感想に、母はこめかみを引きつらせた。
そういえば、昨日は昼から何も食べていない。
そのことを思い出したとたん、急に食欲がわいてきた。お世辞にも祖母と同じとは言えない味だったが、これが自分にとっての母の味なのだろう。あっという間にふたつたいらげ、ホットミルクを飲みながら今日の予定を考える。
ポケモン達は、夕べのうちにポケモンセンターにあずけてくれたそうなので、ひとまず安心だろう。
博士への電話は済ませたし、次にすべきことは――
「ナオト。マユカ達が来てるぞ」
父に呼ばれ、反射的に立ち上がる。
次にすべきことは、考えるまでもなかった。
「……昨日はすいませんでした」
マユカの両親の顔を見るなり、ナオトは真っ先に謝罪した。そして、最初の誘拐が狂言だったことも告白する。
黙っておいてもよかったのだが、あれだけ巻き込んだ手前、嘘をつき通す気にはなれなかった。
ナオトの告白に、怒るよりも呆れたらしい。シンジはため息をつくと、
「一応聞いておくが、なぜそんなことをした?」
「その……ちょっと困らせてやろうかなー、と……」
言っててだんだん恥ずかしくなる。あまりに短絡的で、子供っぽい。
話を聞き終えたシンジは、サトシに目をやると、
「とりあえず……諸悪の根源はお前ということでいいな」
「なんでそうなるんだよ!?」
「まあ、よかったじゃない。みんな無事だったんだし」
ヒカリはナオトの顔をのぞき込み、
「よく話してくれたわね。えらいわ。夕べはよく眠れた?」
「は、はい」
むしろ、眠りすぎたと言ってもいい。ここ最近はどんなに眠っても眠った気になれなかったが、今朝は頭がスッキリしている。
「ほんと昨日は助かったわ。特にマユカちゃん。ナオトのこと、ありがとね。なにかお礼がしたいんだけど……何がいいかな?」
カスミの『お礼』という言葉に、マユカは目を輝かせ、
「それじゃあ、自転車!」
「自転車?」
その要求に、マユカの両親はきょとんとした顔で、
「そういえば……あなた、自転車はどうしたの?」
「あ、ゴメン。壊した」
『壊した!?』
「ナオトの自転車をね、『ソーラービーム』で吹っ飛ばしちゃったの」
驚く両親に、マユカはあっけらかんと、
「で、おわびにマユカの自転車あげるって言ったんだけど、いらないって言うからさー。仕方ないから、マユカの自転車も吹っ飛ばしたの!」
「意味がわからん……」
娘の問題行動に、さすがのシンジも頭を抱えた。
サトシは頬をかきながら、
「えっと……じゃあ、お礼は自転車でいいのかな?」
「ダメよそんなの! こっちこそおわびしなきゃ……!」
その事実にヒカリは頭を抱え――そしてサトシとカスミに頭を下げると、
「……ごめんなさい。ナオト君の自転車、弁償するから。――あんたも頭を下げる!」
「ごめんなさーい!」
「誠意がない!」
「ごめんなさいごめんなさいホントすいませんでしたー!」
母親に頭を抑えつけられ、マユカは涙目になって平謝りした。反省と言うより母親に怯えているだけにも見えたが。
「いや……いいよそんなの」
「うん……自転車って、そうなるさだめの乗り物なのよ。きっと……」
なぜか遠い目をする両親に、ナオトは眉をひそめた。過去になにかあったのだろうか?
「それじゃあ、また新しい自転車を……」
「買・い・ま・せ・ん! 第一、自分で壊しといておねだりするってどういう神経してるのよ!? もう歩いて行きなさい!」
「ええ~!?」
「……そういうことだ。あきらめろ」
シンジはなだめるように、ショックを受ける娘の頭に手を置く。
ヒカリは深いため息をつくと、
「まったく、誰に似たのかしら……ナオト君、ごめんね。おわびがしたいんだけど、何がいいかな?」
「あの、もういいです。迷惑かけちゃったし」
しかし、それでは気が済まないらしい。ヒカリはナオトに詰め寄り、
「そういうわけにもいかないわ。それに、私達は当然のことをしただけ。迷惑だなんて思ってないわ」
「そう言われても……」
すぐには思いつかない。かと言って、今後会うたび同じことを聞かれても困る。
「それじゃあ……」
考えた末、ナオトはシンジに目を留めると、
「ポケモンバトルを」
今、自分に一番必要なもの。
考えてみれば、ひとつしかなかった。
「僕のピカチュウと、ポケモンバトルしてください」
「俺に言ってるのか?」
「ええ? 勝てるわけないじゃん。わたしとバトルしよーよ」
「キミじゃ意味ないんだよ。チャンピオンじゃなきゃ」
シンジはナオトの後ろを指さし、
「そこに現役のチャンピオンがいるだろう」
「あの人は嫌です」
力強く拒絶され、後ろでサトシがずっこけた。
「――いいじゃない。バトルしてあげたら?」
振り返ると、ヒカリはクスクス笑いながら、
「あなたにも昔あったわね。周りの目も気にしないで、チャンピオン相手に勝負を申し込んで。なんだか思い出しちゃった」
「……覚えてないな」
本当に忘れているのか、しらばっくれているだけなのか、シンジはそっぽを向く。
そして少し考えると、
「そうだな……マユカ、お前のナエトルを貸せ」
「わたしの?」
「相手は進化したばかりのピカチュウ。それに見合ったポケモンを使うべきだろう」
「バトルしてくれるんですか?」
驚いて聞き返すと、シンジはナエトルのボールを手に、
「一応言っておくが、手加減はしない。それと」
「?」
「勝つつもりで来い」
「…………」
相手は、チャンピオンにまで登り詰めた男。最初から、勝てる相手だとは思わない。
しかし――
「……はい」
勝たなければいけない。
負けるわけには、いかなかった。
「よそでやりゃいいのに、なんでジムでやるの~?」
ジュースの缶を開けながら、マユカは不満そうに頬をふくらませた。
バトルフィールドとしてシンジが指定したのはハナダジムだった。
ハナダジムは水タイプ専門だ。当然、バトルフィールドも水タイプに有利なプールを使用するのだが……昨日の騒ぎで天井には穴が開き、残骸がプールに沈んでいる。穴はシートですでにふさがれていたが、ガレキはそのままだ。
バトルをするには、まず片づけをしなければならず、終わるまで、マユカとヒカリはロビーで待つことになった。
「草と電気なんだし、プール使うことないじゃん」
「ねえマユカ」
「ん?」
「あなた、サトシに会うためにカントーまで来たんでしょ?」
「え?」
顔を上げると、ヒカリはマユカの目を見て、
「出発をフタバ祭りの日にしたのも、パパがすぐ追ってこれないようにするためね?」
すべて見抜かれている。
観念すると、うなずき、
「……うん。ドタキャンしてまで追ってくるとは思わなかったけど」
「ま、あなたの想像通りに動くような人なら、チャンピオンになんかなれません」
そう言うと、ベンチに腰を下ろす。
「……ねえママ」
マユカも母の隣に腰を下ろし、
「パパ、どうしてチャンピオンやめちゃったの?」
「ちゃんと説明したでしょ。もっとやりたいことが見つかったって」
「トレーナーズスクールの先生なんて、どこにだっているじゃん!」
ほとんど反射的に怒鳴り返す。
これまで、引退した理由は散々聞かされた。
しかし、納得出来なかった。
「先生なら努力すればなれるけど、チャンピオンはどんなにがんばってもなれない人のほうが多いんだよ? 各地方で、一人しかいないんだよ!?」
「その理由を、どうしてサトシが知ってると思ったの?」
「……だって、カントーのチャンピオンに負けてすぐだったもん。パパが引退したの」
タイミングがタイミングなだけに、当時は勝手な憶測が飛び交った。
カントーのチャンピオン相手に、とうとう勝つことをあきらめたとまで言われた。
しかし母は、笑みを浮かべると、
「『やめた』んじゃなくて、次へ進んだのよ」
「?」
「口ではなんだかんだ言って、結局、目標はお兄さんだったのかもね~」
「……レイジ伯父さん、ただの育て屋じゃん」
伯父は、何年も昔からポケモンの育て屋をやっている。それとこれがどう関係あるのだろう?
「ねえ。マユカは、チャンピオンのパパが好きなの?」
「え?」
「ただの先生やってるパパは、きらい?」
「…………」
マユカはしばらく、手にしたジュースの缶をにらみつけ、
「好きとかきらいとか……パパはパパだもん」
「だったら、それでいいじゃない」
ぽん、と、マユカの肩に手を乗せる。
そしてなにか思い出したのか、
「ねえマユカ。パパのお手伝いしてみない?」
「お手伝い?」
その言葉に、マユカは首を傾げた。
「手伝ってくれてありがとう。でも……本当にここでいいの? 電気と草タイプでしょ?」
「ここでいい」
一応確認するカスミに、シンジはうなずく。
プールには、形や大きさが異なる合成樹脂製のボードが足場としていくつか浮いている。
しかし固定されていないので、衝撃を受ければ揺れるし、場合によってはひっくり返って水の中だ。
身軽でジャンプ力もあるピカチュウならともかく、ナエトルには不利でしかない。
「ピカチュウ、頼むぞ」
「ピカッ!」
ピカチュウは威勢良く、トレーナーの目の前にある長方形のボードに飛び乗る。
「ナエトル、出番だ」
シンジもボールからナエトルを出すが、
「ナ、ナエ?」
揺れる足場に、ナエトルは戸惑った顔で振り返った。
初めての水上バトルに、不安になるのも仕方ないが、
「うろたえるな。バトルが始まれば、経験の深い浅いは関係ない」
「ナエトル、がんばってー!」
観客席のマユカの声に覚悟を決めたのか、ナエトルは前に出る。
審判のカスミは、両者出そろったことを確認すると、
「それでは、ピカチュウ対ナエトル、一対一のポケモンバトル、始め!」
勢いよく手を振り上げ、戦いの幕が切って落とされた。
「ピカチュウ、『でんこうせっか』!」
「ピッカー!」
ナオトの指示に、ピカチュウはボードからボードへ飛び移り、猛スピードでナエトルに突っ込む。
そのスピードにナエトルはうろたえたが、
「動くな。受け止めろ」
「ナ、ナエ!」
――ゴッ!
ナエトルは四つんばいになって踏ん張り、真っ正面から受け止める。
「ナエ~!」
「ピカ!?」
ぶつかった衝撃で、ボードが沈んだ。反動でピカチュウはバランスを崩し、慌ててボードにしがみつく。
「この足場じゃ、水がクッションになってパワーが削がれるか……」
今の『でんこうせっか』も威力が乏しかった。それをわかった上で受け止めたようだ。
「『はっぱカッター』!」
「ナエ~!」
ナエトルの反撃に、ピカチュウは慌てて別のボードに飛び移り、『はっぱカッター』をかわす。
別のボードに逃げられては、もはやナエトルの攻撃手段は『はっぱカッター』しかない。『ソーラービーム』も、チャージ時間を考えると実用的ではなかった。
「ナエ! ナ~エ!」
ムキになったのか、ナエトルは勝手に『はっぱカッター』を連発するが、まるでタイミングが合わず、かすりもしない。
マユカは思わず身を乗り出し、
「ちょっとナエトル! ちゃんとパパの言うこと聞きなさいよ~!」
「マユカ、ナエトルとどれくらいバトルしたの?」
ヒカリに聞かれ、マユカはあごに指を当て、
「えぇと、夕べのことをのぞけば、まったくやってない」
「つまり、実戦経験についてはピカチュウのほうが上ってことね」
「えぇ!? パパ、負けないよね?」
「さあ、どうかしら?」
「そんな~!」
「いいから黙って見てなさい」
ヒカリになだめられ、しぶしぶ座る。
「がむしゃらに撃っても疲れるだけだ。じっとしろ」
「ナエ~」
シンジの言葉に、ナエトルはようやく『はっぱカッター』を撃つのをやめた。
その瞬間を狙って、
「今だ! 『10まんボルト』!」
「ピカーーーーーーーーーーッ!」
ピカチュウが、渾身の『10まんボルト』を放つ。
狭いボードの上で逃げ回れば、足下が揺れ、最悪水の中だ。
つまり逃げ場などないのだが、
「伏せて全身で受け止めろ」
「ナエッ!」
言われた通りその場に伏せると同時に、頭の双葉に電撃が落ちる。
直撃だったが、ほどなくして、
「ナエ?」
ナエトルは、きょとんとした顔で起きあがった。何が起こったのかもわかっていないようだ。
「効いてない!?」
元々、草タイプに電気技はあまり効かないが、ノーダメージというわけでもない。
しかしナエトルの様子からして、ほとんどダメージは受けていない。
「避けようとヘタに動き回るより、あえて受け止めて、床に電気を逃がしたんだな」
「サトシ?」
ヒカリが振り返ると、後ろにサトシがやってきた。
サトシは適当な席に座ると、
「マユカ。お前のパパとナエトルのバトル、しっかり見ておけよ」
「は、はぁ……」
適当にうなずき、マユカはフィールドに視線を戻す。
「ナエトル」
呼ばれて振り返ると、シンジはナエトルを見下ろし、
「お前に『勝利』というものを教えてやる。これから俺が言うことを、よく聞け」
「ナ……ナエ!」
ナエトルはうなずくと、ピカチュウをにらみつける。
「ナエトル、ピカチュウに『はっぱカッター』」
「ピカチュウ、かわして!」
「ピカ!」
ピカチュウは隣のボードに飛び移り、はずれた『はっぱカッター』はボードを吹き飛ばす。
「ピカチュウにもう一度『はっぱカッター』」
「よけて!」
「ピーカ!」
ピカチュウは再び隣のボードに飛び移り、またも『はっぱカッター』はボードに当たる。
マユカは床を踏みつけながら、
「パパ、なにやってんのよ~!? 全部よけられてるじゃん!」
「ふぅん……やっぱそうきたか」
「え?」
「ま、見てろって」
首を傾げるマユカに、サトシは意味ありげな笑みを浮かべる。同じ光景を見ているはずなのに、違うものが見えているみたいだ。
フィールドでは、ピカチュウが持ち前の機動力を生かし、ボードからボードへ飛び移っていた。
ナエトルの『はっぱカッター』は避けられるたびにボードに当たり、ボードは水しぶきを上げて移動する。
「お前、自分の親父のバトルは見ていないのか?」
「え?」
驚くナオトに、シンジはすべてを見透かしたような顔で、
「ならばお前に勝機はない」
そして、ピカチュウが小さめのボードに飛び移ろうとしたところで、
「今だ! ボードに『はっぱカッター』!」
「ナエ、ナエーーーーッ!」
『はっぱカッター』が、ピカチュウが着地するつもりだったボードの側面に直撃し、水面を勢いよく滑る。
「ピッ、ピカーーーーーーーッ!?」
突然着地点がなくなり、ピカチュウはなすすべもなく水の中に突っ込んだ。
「ピカチュウ!?」
「――ピカ~」
水面に、ピカチュウが顔を出す。
「早く水から上がれ!」
言ってから、気づく。
「ボードがない!?」
ピカチュウの周辺に、足場となるボードがない。
この時になって、シンジの狙いはボードだったと気づく。
足場を奪い、水中に落とす――ピカチュウの機動力を逆手に取った作戦だった。
「フィールドにあるものをすべて使う。どんなに自分が不利な状況でも、そこから逆転へと繋げる……お前の親父の得意技だ」
顔を上げると、ナエトルの双葉に、光が集まりつつあった。
まさに絶体絶命。
ピカチュウは水中で硬直したが、
「――ピカチュウ、あきらめるな! ナエトルのボードに急げ!」
「ピッ、ピ~カ!」
ナオトの声に我に返ったピカチュウは、必死にナエトルのいるボードへ向かって泳ぐ。
しかし、到達するより早く、
「『ソーラービーム』、発射!」
「ナーーーエーーーーーーッ!」
ナエトルの双葉に集まった光が、ピカチュウ目掛けて放たれる。
「――水に潜れ!」
とっさに言葉が出たが、遅かった。
「ピカーーーーーーーーーッ!?」
ビームはピカチュウの体を勢いよく水の中に沈め、水しぶきを上げながらプールの壁まで吹っ飛ばす。
「ピカチュウ! ピカチュウ!?」
「……ピ~カ……」
ぷかぁ、と、ピカチュウが仰向けになって水面に浮かび上がる。目を回しながら、噴水のように水を吐いた。
「――ピカチュウ、戦闘不能。よってこの勝負、スクールインストラクターのシンジとナエトルの勝ち!」
ほどなく勝者を告げるジャッジが下され、勝負は幕を閉じた。