おかあさんといっしょ2 - 1/4

 

「どうりでにぎやかだと思ったら。今日はお祭りだったんだね」
「お祭り?」
 たどり着いた小さな町のポケモンセンター。
 ロビーに貼られたポスターにデントが足を止め、つられて、サトシとアイリスも足を止める。
 デントはポスターを指さし、
「ほらこれ。今日は町おこしのお祭りをやってるんだよ。メインイベントは、ポケモンバトルの大会だって」
「ポケモンバトル!?」
 その言葉に、サトシは目を輝かせた。
 デントはルールに目を通しながら、
「大会中、使用出来るのは未進化の一体のみ。急げば、今からでもエントリーに間に合いそうだね」

 ――未進化……

 その条件に、アイリスは肩のキバゴに、
「ねえキバゴ。出てみよっか?」
「キバ?」
 アイリスはキバゴを下ろすと、目を見て、
「『りゅうのいかり』も完成したし……出られるポケモンが限定されているなら、わたし達にだってチャンスはあるわ!」
「キバ……キバ! キババ!」
 キバゴもその気になったのか、両手を振る。
「――俺も出る! デントも出ようぜ!」
「そうだね……よし。それじゃあ、みんなで出よっか」
「え?」
 サトシとデントの言葉に、アイリスは顔をこわばらせ、
「きょ、今日は応援ってことにしない?」
「お祭りは参加しなきゃ意味ないだろ。それとも、『ライバルは少ないほうがいい』なんて言うんじゃないだろうな?」
「そ、それはその……」
 半眼になってにらみつけるサトシに、アイリスは言葉をにごらせる。
 デントは笑いながら、
「さっき、『チャンスはある』って自分で言ったんだよ? それとも、見物だけにする?」
「なによ! わたし達だってやれば出来るわよ! 二人にだって負けないんだから!」
「そうそう、その意気だ! 勝負は最後までわからないもんな!」
「うん! キバゴ、さっそくエントリーに行くわよ!」
「キバ!」
 サトシの言葉にアイリスは大きくうなずくと、センターを飛び出し――
「……ねえ。エントリーってどこでやってるの?」
 ほどなくして、引き返してきた。

 大会が行われるのは、町の中心にあるグラウンドだった。
 ロープで仕切られただけの観客席、バトルフィールドもそんなに広くはない。手作り感ただよう、町の小さな大会といった感じだ。
 エントリーを済ませると、サトシは四つのモンスターボールを手に取り、
「未進化の一体のみか……誰にしようかな」
「ズルッグはまだ早いんじゃないかな? 勝てたとしても、連戦に耐えられるかどうか」
「無理させるのは良くないわよ」
「そっか。じゃあ、この三体だな」
 デントとアイリスのアドバイスに、サトシはミジュマル、ポカブ、ツタージャを出す。
「ミ~ジュ。ミジュマ!」
 さっそくミジュマルが手を振って自己アピールをするが、サトシはポカブに目を止めると、
「よし! ポカブ、キミに決めた!」
「ポカッ!」
 指名に、ポカブはシッポを振って喜ぶが――その横で、ミジュマルは石化した。
 そして、
「ミ~ジュ~~~~~~ッ!」
「ミジュマルー!?」
「どこ行くの!?」
 よほどショックだったのか、ミジュマルはどこへともなく走り去った。

「ミジュマル~!」
「ピ~カ~!」
 ポカブとツタージャ、そしてサトシ達も手分けしてミジュマルを捜すが、見つからない。
「――サトシー!」
 呼ばれて顔を上げると、近くの木の上にアイリスがいた。
「そっちはどうだ?」
 アイリスは木から下りてくると、
「上から見ても人が邪魔で見つからないわ。もう、勝手に戻ってくるのを待つほうがいいんじゃない?」
「そっか……まったく、あいつにも困ったな」
 サトシはため息をつき――そこに、
「――コジョーーーーーー!」
「へっ?」
 頭上から聞こえた声に再び顔を上げると、両肩を何かに踏みつけられる。
「うわっ!?」
 重みはあっと言う間に跳び上がり、反動でサトシはその場にひっくり返った。なんだか頭がスースーする。
「ピカピ!?」
「サトシ!?」
 サトシは何が起こったのか理解出来ぬまま、なんとか体を起こす。
「な、なんだ!?」
「――コジョ~! コジョコジョ~!」
 振り返ると、一体のポケモンが、サトシの帽子をかぶって笑っていた。
「コジョフーじゃない! なんでいきなり……」
「ピカー! ピカピカ、ピッカチュー!」
「コ~ジョ」
 ピカチュウが帽子を返すよう訴えるが、コジョフーは帽子をかぶったままそっぽを向く。
 サトシはコジョフーをしげしげ眺め、
「あれ? このコジョフー、ひょっとして……」
「――またおまえ達か……」
 聞き覚えのある声がした。
 その力のない声に振り返ると、そこにいたのは――
『シンちゃん!』
「その呼び方はやめろ!」
 きれいにそろった二人の言葉に、シンジは力いっぱい怒鳴り返した。

「コジョフー、勝手にうろつくなと言っただろう。くだらん悪さもするんじゃない」
「そうそう。帽子、返してくれよ」
「コジョ」
 シンジとサトシを無視して、コジョフーは近くの木によじ登ると、
「コ~ジョ、フ~ッ」
『…………』
 あっかんべー、と舌を出す。むろん、帽子は返さない。
 このふてぶてしい態度に、サトシはシンジに詰め寄り、
「おい、おまえのママのポケモンだろ? なんとかしろよ!」
「無駄だ」
 シンジはため息混じりに、
「トレーナーに似てマイペース……相手によって態度を変えるし、俺の手にも負えん」
「まさにポケモンによる人間の厳選……」
「シンちゃんは厳選からはずれたってわけね」
「…………」
 二人の言葉に、シンジの顔が引きつる。
「――あれ? ひょっとしてシンジ?」
 そこにデントが合流した。
「あ、デント。どうだった?」
「こっちも見つからなかったよ。……ん?」
 視線に気づき、振り返ると、シンジが青ざめた顔でデントを見つめていた。
「どうかした?」
「え? い、いや……」
 聞かれて、シンジは慌ててデントから目をそらす。
 サトシは帽子をあきらめると、気を取り直し、
「それはそうと、おまえこんなトコでどうしたんだよ? とっくにシンオウに帰ったと思ってたぞ」
 以前会った時、シンジはイッシュで単身赴任中の母親――ヨウコの引っ越しの手伝いで来ていたのだ。しばらくはシンオウにいると言っていたのだが……
 サトシは目を輝かせ、
「ひょっとして、イッシュリーグに挑戦するのか!?」
「俺はイッシュリーグになど挑戦しない」
「じゃあ、なんでまだイッシュにいるんだよ?」
「…………」
 その疑問に――シンジは苦虫を噛みつぶしたような顔で、
「……おふくろが、イッシュリーグに挑戦すると言い出した」
「ヨウコさんが!?」
「それじゃあ、付き添い?」
「見張りだ」
 アイリスの言葉を即座に訂正する。
「この大会にも腕試しで参加するらしい。エントリーに行ってずいぶん経ったが……」
「あれ? 僕達、さっきエントリーを済ませたけど、それらしい人はいなかったよ?」
「また勝手にどこか行ったか……」
「苦労してるわねー」
 すでに疲れ気味のシンジに、アイリスは同情の笑みを浮かべる。
「――ツタッ」
「おっ、見つかったか」
 そこにツタージャが、つるで縛ったミジュマルを引きずって戻ってきた。ポカブも一緒だ。
「ジュ~……」
「ツタッ!」
「ミジュー!?」
 ツタージャにムチで活を入れられ、ミジュマルは跳び上がる。
「ポカ~。ポカポカ」
「タ~ジャ」
 やりすぎだと言っているのか、ポカブがミジュマルとツタージャの間に入り、双方をなだめる。
 シンジはポケモン図鑑を取り出し、
「この三体、イッシュの新人トレーナーがもらう……」
「うん。シンジなら誰を選ぶ?」
「くれるのか?」
「誰がやるかよ」
「そうだな……」
 シンジは図鑑と、目の前の現物を見比べ――
「しいてあげるなら、ミジュマルだな」
「ジュ?」
 ミジュマルは、一瞬、ぽかんとしたが――
「――ミジュ~~~~~~~ッ!」
 感極まったのか、涙を流し、シンジの足に抱きつく。
「なんだこいつ?」
「選んでくれたのがよっぽどうれしいのね」
「今も、選ばれなかったショックでどこか行っちゃったくらいだからなぁ……」
「ミジュ~! ミジュミジュ~!」
「離れろ気持ち悪い!」
 振りほどこうとするが、ミジュマルは離れるどころかよじ登ってきた。服が、涙で濡れる。
 シンジは背筋に寒気を感じながら、サトシをにらみつけ、
「おい! トレーナーならなんとかしろ!」
「あー、わかったわかった! うれしいのはわかったから!」
 シンジの苦情に、サトシは慌ててミジュマルを引きはがす。
「ミジュ~! ミジュジュ~!」
 サトシに持ち上げられたまま、ミジュマルは手足を振る。さっきまでの不機嫌はどこかへ行ってしまったようだ。
 そんなミジュマルに、サトシは、
「そんなにシンジが気に入ったんなら、いっそシンジのポケモンになるか?」
「ジュ?」
 その言葉に、ミジュマルの動きが止まった。
 アイリスとデントは寂しそうな笑みを浮かべ、
「ということは、ミジュマルとはここでお別れね」
「寂しくなるなぁ」
「ミジュ!?」
 ミジュマルはピカチュウ達に振り返るが、ピカチュウ達は一斉に、バイバ~イと、笑顔で手を振る。
 ミジュマルは、すがるような目でシンジを見つめるが――シンジはキッパリと、
「もらえるのがこのミジュマルなら、いらない」
 そのとどめの言葉に――ミジュマルの目の前は、真っ暗になった。