15.秘めやかな燦めき - 4/5

「それでは、今日も元気にマナストーンの捜索であります!」
「…………」
 朝っぱらから響くテケリの声に、思わず耳を塞ぐ。
「大丈夫ですにゃ? 顔色が良くにゃいみたいですけど」
「……大丈夫だ」
 口ではそう言うものの、なんとなく体が重い。寝過ぎた上、変な時間に起きてしまったからだろうか。
 しかし、ユリエルはお構いなしに、
「別に動けないわけでもないでしょう? 一緒に来てもらいたいところがあるんですが」
「まあ、かまわんが……」
 うなずいてから辺りを見渡し――ふと、離れた場所で座っていたエリスと目が合う。
 彼女は口をとがらせ、
「わたしは行かないわよ。そもそも、マナストーンなんてわたしには関係ないことだし」
「誰もお前についてこいなんて言っていない。むしろ、いないほうが好都合だ」
「フン」
「お二人とも、仲良くするであります~」
 ジェレミアの言葉にエリスはそっぽを向く。間にテケリが入っても、なごみにすらならない。
「それはかまいませんが、どうするんです?」
 エリスは立ち上がり、服のホコリをはたきながら、
「シェーラと約束があるの。これから迎えに行ってくる」
「シェーラさんのおうち、知ってるでありますか?」
「知らないけど……あっちの方角から来てるみたい。たぶん、途中で会うと思うわ」
 そう言うと、『あっち』の方角へと歩き出す。
「大丈夫なのか? 勘まかせで」
「あ、それにゃらオイラも一緒に……」
「――ウチが一緒に行ったるわ。女の子同士のほうがエエやろ」
 ニキータの代わりにウンディーネが名乗り出ると、エリスの後を追いかける。
「あー……」
「おい。私の杖はどこだ?」
「あれ?」
 置いてけぼりにされたニキータに聞くと、彼も杖がないことに気づいたらしい。小首を傾げ、
「たしか、オイラが荷物と一緒に運んだはずですにゃ。そのあとは……ひょっとすると、リロイさんの家に置きっぱにゃしかも」
「では、さっさと回収してきてください」
「まったく……」
 リロイと言えば、夕べ乱暴に追い出されたばかりだ。正直、顔を合わせたくない。
 ニキータに目をやると、こちらが口を開くより先に、
「それじゃーオイラは、ここでお待ちしてますにゃ!」

 ――この猫……

 最近、回避能力が上がったらしい。
 ニキータに行かせることはあきらめると、自分の足で、夕べ追い出されたばかりの小屋へと向かった。

「お前も暇だな。あと、こんなものいらん」
 リロイの家が見えてきた頃、声が聞こえ、思わず木陰に身を隠す。少しだけ顔を出して様子を見ると、家の前にリロイとシェーラがいた。
 リロイは狩りにでも出かけるのか、剣と弓を携え、さっさと出かけてしまった。後を追って杖のことを聞こうかと思ったが――
「……何やってるんだ?」
 なんとなくシェーラが気になり、声をかける。
 彼女は小袋片手に目をぱちくりさせ、
「あ、目が覚めたの?」
「夜中にな」
 よく見ると、家の入り口に杖が立てかけてあった。気づいて出しておいてくれたようだ。
 杖を手に取ると、
「ところで、何の話をしていたんだ?」
 もう一度聞くと、シェーラは小袋に視線を落とし、
「……そうだ。あなた、いる?」
 唐突に、小袋をこちらに差し出す。
「なんだこれは?」
「花の種よ」
 袋の口を開けると、小さな黒い種子がびっしり詰まっていた。
「名前は知らないけど、きれいな花が咲くの。とても強い花でね。多少環境が悪くても、ちゃんと育つの」
「花の種……」
 こんなもの、もらっても困るだけだ。第一、育てられない。
 こちらの心中など気づきもせず、シェーラは笑みを浮かべ、
「おすそわけ。たくさんあるから」
「……わかった。もらっておく」
 断れず、結局受け取る。
 そして、ふと、
「ところで、エリスに会わなかったのか?」
「え?」
「お前を訪ねに行ったが」
 こちらの言葉に、シェーラの顔から、一気に血の気が引いた。

 * * *

「なにここ……」
 見つけたほら穴の中で、エリスは呆然とつぶやいた。
 シェーラが持っていたものと同じ花が咲いているのを見つけ、村が近いと思ったのだが……見つかったのは村ではなく、岩壁に出来た小さなほら穴だった。
「誰か住んどるみたいやな」
 ウンディーネに中を照らしてもらうと、台所だろう。石を積んで作ったかまどや、鍋などの調理器具があった。
 さらに奥へ進むと、小さなタンスやテーブル、わらを積んで作ったベッドがあり、誰かが生活しているのは間違いない。
「シェーラ?」
 気配を感じて振り返ると、走って来たのか、息を切らしたシェーラが立っていた。

「……どういうことよ? 村は? 他のエルフは?」
 こちらの問いかけに、シェーラは深く息を吐き――呼吸を落ち着かせると、
「……心配しないで。他のエルフ達は、もっと深く……ランプ花の森の奥に住んでるわ」
 そう言うと、彼女は一脚しかないイスに腰を下ろす。
「十年前……眠りの花畑でリロイと話をしていたのを、村の誰かに見られていたの」
 しばらくして、シェーラはぽつりぽつりと話し始めた。
「その後で、村があんなことになってしまったから。わたしが、マナストーンのありかを人間にしゃべったんだって、みんなから疑われた」
「そんなの言いがかりじゃない! 第一、マナストーンのありかなんて知らないんじゃなかったの!?」
「仕方がないことなの。悲しみは時間が経てば、憎しみになるから」
 声を荒げるこちらに対し、シェーラは淡々と、
「リロイが教えてくれた。誰かに、何かに憎しみをぶつけなければ、自分を保てなくなる。生きていけないって」
「…………」
「わたしが一人、みんなの目の前から消えて、それでみんなが生きていけるなら、わたしはそれでいい」

 いいわけがない。

 そう思ったが、言葉が出てこない。
 きっと、自分がその場にいなかったからだ。
 どれほど悲惨で、絶望的な状況だったかを知らないから、そんな風に思えるのだ。
 シェーラはため息をつくと、まるで他人事のように、
「不思議ね。目の前でたくさん仲間が死んで、ご神木も焼いたのに……なのに、なにも変わらなかった。住む場所が変わっただけで、これまでとなにも変わらない。ずっと……ひとり」

 ――あれ?

 今の言葉に、なにかおかしなものが混じっていることに気づく。
「……『焼いた』?」
「ご神木に火をつけたのは、わたし」
 一瞬、思考が停止する。
「騒ぎのどさくさに紛れて、火をつけてやったの。やるなら今しかないと思って」
「な……なんで?」
 ようやく言葉をしぼり出すと、彼女は淡々と、
「わたし達は、あの木と共に生きてきた。あの木がいけないの。あんな木があるから、わたし達はなにも変わらない。いつまで経っても、大木の足下に生えてる雑草と同じ。こころなんてない」
 シェーラはこちらを見つめているようで、まったく別のところを見ているような不気味なまなざしで、
「だから焼いてやったの。でも、なにも変わらなかった。木は、ただの木だった」
 ようやく、シェーラが言いたいことを理解する。

 がっかりしているのだ。

 何かが変わることを期待して火を放ったのに、なにも変わらない現実に、がっかりしているのだ。
「目の前で仲間が殺されても、ご神木が焼け落ちても、わたしはなにも感じなかった。でも、みんなは違った。泣いて……わめいて、悲しんで、怒って……みんな、こころを持っていた。雑草は、わたしだけだった」
 シェーラは立ち上がると、こちらを感情のない目で見据え、
「やっとわかったの……おかしいのはわたしだけなんだって。わたしには、こころがないのよ。種族なんて関係ない。あのおとぎ話みたいに人間になったって、きっとなにも変わりはしない。みんなと同じにはなれない。どこに行っても、誰と一緒にいても、ひとり」
 シェーラの目に、どこか薄ら寒いものを感じ、思わず一歩後ずさる。
「ねえ、どんなものなの? 『こころがある』って……どんな気分?」
「わっ……わかんない……」
 震える声でなんとかそれだけ返すが、シェーラは納得しなかったらしい。
「わからないはずがない。だってあなた、『こころ』を持っているんでしょう?」
 一歩、こちらに踏み出す。
「わたしにも、こころがあれば良かったのに」
 シェーラの目は、すでにこちらを見ていない。どこか遠くを見るように、
「そうすれば、わたしもみんなと一緒に、狂ってしまえたのに! 狂うことが、出来たのに!」
「――ええ加減にせんかこのドアホ!」

 ――バシャン!

 ウンディーネに頭から勢いよく水をぶちまけられ、シェーラはその場にへたり込んだ。

「…………」
 緊張の糸が切れ、エリスはその場にへたり込んだ。
「エリス、大丈夫か?」
「う……うん」
 ウンディーネに顔をのぞき込まれ、こくこくうなずく。ついてきてくれたのがウンディーネで、本当に良かった。
 シェーラに目をやると、彼女はずぶ濡れでへたり込んだまま、ぼんやりと床に視線をさまよわせている。
 ひとまず危機は去ったとみなし、
「……ねぇ。なんで『こころがない』なんて思うの?」
 シェーラは視線をこちらに向けると、
「……さっき言ったじゃない。みんなには当たり前にある感情が、わたしにはない。わたしはみんなと違うんだわ」
「でもこころがないならさ。『こころが欲しい』なんて最初から思わないでしょ?」
「…………」
「リロイにちょっかい出したりもしないわよ」
「…………」
 シェーラは、しばらくこちらに目を向けていたが――視線を落とすと、
「……五年前、リロイがあの小屋に住んでいることを知った時も、何も感じなかった。ただ、少しだけ嬉しかった」
「嬉しかった?」
「この人も、わたしと同じなんだって」
「…………」
 どう返せばよいのかわからず、お互い、黙り込む。
「……なあ。いつまでもこうしとるわけにもいかんし、もうええやん」
「?」
 助け船を出してくれたのはウンディーネだった。
 ウンディーネはあえて明るい口調で、
「まあなんや。色々あったっちゅうことはよぉーっくわかった! わかったから、ここはひとつ、気晴らしにおいしいもんでも食べて、イヤなことは忘れよ。うん」
 しばらく、ぼーっ、とその言葉を頭の中で反復し――
「……そうよね。考えすぎなのよ! シェーラだって、おいしいもの食べたらおいしいって思うでしょ? それでいいじゃない!」
 がばっ! と立ち上がる。
 そしてシェーラに目をやると、
「言いたいこと言ってスッキリしたでしょ? とりあえず着替えてさ、外出ましょうよ。こんな暗いとこにこもってちゃ、ロクなこと考えないわよ」
 シェーラはぽかんとしたまま首をかしげ――ぽつりと、
「あなた……女神さま?」
「はぁ?」

 外に出ると、洞窟の周囲に咲き乱れる花が風に揺れていた。
「この花って、元々ここに咲いてたの?」
「――いいえ。わたしが種を蒔いたの」
 洞窟の奥から、返事が返ってくる。
「村の焼け跡で咲いてるのを見つけて、種を蒔いたら、どんどん増えちゃって。きれいだから、放っておいてるの」
「ふぅん……」
 シェーラの着替えを待つ間、エリスは適当に花を摘み、編んでいく。
「……なぁ。シェーラ、ホンマ大丈夫なんやろか?」
 ウンディーネは声をひそめ、不安げな顔で、
「今は落ち着いたみたいやけど、またさっきみたいなことがあったら――」
「シェーラの気持ち、わかる気がするの」
「?」
「そりゃあ、ちょっと心配だけど……花がきれいだと思えるうちは、大丈夫よ。きっと」
 どのみち、自分に出来ることなどたかが知れている。
 せめてリロイが、シェーラとまともに口を利いてくれるようになれば安心なのだが……
 花かんむりが出来上がった頃、着替えが済んだシェーラが洞窟から出てきた。
 それとほぼ同時に、
「え?」
 突然、暗くなった。
 見上げると、上空を、巨大な水晶の船が通り過ぎていった。

 ◆ ◆ ◆

「…………?」
 体が、ざわざわする。
 予兆と言うか、まるで体の中で何かが騒ぐようなこの感覚。もう何度も経験しているが、どうしても慣れることが出来ない。
「どうしたでありますか?」
 こちらが足を止めたことに気づいたのか、テケリと、そして他の者達も足を止める。
「いや……大丈夫だ」
 どうしたと聞かれても、こちらも答えようがない。
 嫌な予感と言えばそうなのかもしれないが、そんな曖昧なことを言ったところで不安をあおるだけだ。
「それより、本当にあの木がトレントだったのか?」
「ええ。我々は嫌われてしまったようなので。あなたがうまいこと聞き出してください」
「……うまいこと、と言われてもな……」
 あいにく、交渉事には慣れていない。それに姿を見せてくれるとも限らないのだが……
「キュゥ……」
 今度はラビが動きを止め、耳を立てる。
「どうした?」
 ラビは長い耳を広げ、垂直に立てる。この動きは、不審な音を聞きつけた時だ。
 どこから音がするのか、周囲を見渡し――
「上ですにゃ! これ、エンジン音じゃにゃいですか?」
 ニキータの声に顔を上げると、木々の隙間から、一瞬、何かが横切っていくのが見えた。
「今のはルジオマリスじゃないのか!?」
 強い風が吹き、木々がざわめく。ずいぶんと低空を飛んでいる。
「おいおい、村の方角だぞ」
「村と言っても、あそこにはなにもないぞ?」
 ジェレミアの言うとおり、神木の正体を知らなければ、あの村にはなにもないはずだ。
 逆を言えば、
「――トレント!」
 突然、ロジェが血相を変えて走り出す。
「急ぎましょう! トレントの存在に気づかれたのかも――」
 その時、光が走った。
 少し遅れて足下が揺れ、轟音が響き渡る。
 揺れが収まり、見上げると、もうもうと立ちこめる煙が見えた。

 ◇ ◇ ◇

「なんだこりゃ……」
 目の前の光景に、呆然と立ちつくす。
 村があったはずの場所は跡形もなく消え去り、代わりに、巨大なクレーターが出来ていた。
「トレントが……!」
「ロジェ! ちょっと待て!」
 キュカの声は無視して、ロジェはクレーターの中心地に向かうが、もはや神木は跡形もなく消え去っている。
「トレント……トレント!」
 トレントが立っていたであろう場所に膝をつき、地面を掘り返すが、固い土が出てくるだけで、根すら残っていない。

 ――何もしなければ、いずれ、何もしなかった自分が君を苦しめるだろう。

「?」
 顔を上げるが、他の者達には何も聞こえていないらしい。心配そうな顔でこちらを見ているだけだ。
 この声は――

 ――結果として不幸が起こっても、何かをした自分を責めてはいけない。同じように、何もしなかった自分も責めてはいけない。どちらも、自分が選んだ道……もっとも、罪深きは――

「ロジェ! 離れろ!」
 突然、兄に腕を引っ張られる。
 わけがわからず、引きずられるようにその場から離れると、すぐに変化が起こった。
 さっきまで自分がいた場所――トレントが立っていた場所を中心に風が渦を巻き、光と共に何かが浮かび上がってくる。
 出現したのは、身の丈ほどはあろうかという、巨大な石だった。
「マナストーン!?」
「神木の中に……」
 木の中に石があるなどおかしな話だが、トレントの大きさとその存在そのものを考えると、不思議はないような気がする。
「――伏せろ!」
 サラマンダーの声に振り返ると、火炎球がすぐそこまで迫っていた。
「――――!?」
 目の前で爆発が起こり、隣にいた兄共々爆風に吹き飛ばされる。
「オイ! しっかりしろ!」
「うっ……」
 体を起こし、目を開けると、サラマンダーが視界に入る。どうやらサラマンダーがかばってくれたおかげで直撃は免れたらしい。
「――こんなところまでご苦労だな」
 火炎球が飛んできた方角に振り返ると、同じ顔の女が二人、並んで立っていた。
 一人は以前会った時と同じ軽鎧を身につけていたが、もう一人はこれまでとは違う、黒いドレスと銀色の胸当てを身につけ、暗緑色のマントを羽織っていた。もはや教団員を名乗る必要がなくなった、ということだろう。
 黒いドレスの女――ルサは、こちらに杖を突きつけると、
「ここで最後だ。お前達にはいい加減、退場してもらうぞ」
「最後? どういうことだ!?」
「言葉そのままの意味、ですよ」
 すぐ後ろから聞こえた声に、背筋に寒気が走る。
 振り返ると、鎌を持った不気味な男がマナストーンの側に立っていた
「死を喰らう男!」
 その存在を認識した頃には、すでにマナストーンは光に包まれ、消え去った。
「さて、わたくしの仕事はこれにて終了です。後はお好きにどうぞ」
「ふざけるな!」
 ジェレミアが双剣を抜くが、死を喰らう男は大きく飛び上がると、そのまま姿を消す。
「待て!」
 彼女は死を喰らう男の残像に飛びかかろうとしたが、その足下に電撃が走った。
「消えたヤツを追ってる場合か?」
「ぐっ……」
 ルサは一歩前に出ると、
「さっきも言ったが、お前達にはこの辺りで退場してもらう」
「その前にお聞きしたいのですが、『最後』と言いましたね。もしや闇のマナストーンも、すでに手中にあるということですか?」
「答える必要はない」
 答えたのはルサではなく、これまで黙っていたルカだった。
「そうですか。では――」
 突然、ユリエルはこちらの肩を叩き、キュカもジェレミアの腕をつかむ。
 そして、サラマンダーが前に出ると、
「各員、退却!」
 その言葉を合図にサラマンダーが勢いよく煙を吐き、全員、全速力でその場から退却した。

「……薄々感じてはいたんだがな」
 茂みの中に身を潜め――キュカはぽつりと、
「俺達ってさ、女運ないよな」
「同感です」
 弓の具合を見ながら、ユリエルも同意する。
「何考えてるんだお前らは! なんで逃げたりした!?」
「勝てないから、ですよ」
 退却が納得出来なかったらしい。ジェレミアは怒り心頭のようだったが、ユリエルは冷静に、
「MOBが召喚出来ない、隠れる場所もない。あの状況で勝てるわけないでしょう」
「相手はたった二人だぞ!」
「この前、たった一人を相手に三人そろってこっぴどくやられたそうですが?」
「うっ……」
 その事実に反論出来ず、黙り込む。
 キュカはため息をつき、
「逃げたはいいけど、どうするんだ?」
「木のマナストーンが奪われた以上、もうこの地に用はありません。さっさと逃げましょう」
 その言葉に、レニは驚いた顔で、
「逃げると言っても……エリスがシェーラの元へ行ったままだ。第一、そう簡単に――」

 ――ゴッ!

 自分達のすぐ横を光が走り抜け――どこからともなく降り注いだ隕石が、次々と木をなぎ倒していく。
『…………』
 ゴクリと、誰かが息を呑む音が聞こえる。
「――まさか、逃げ切れるなんて思っていないだろうな?」
 恐る恐る、茂みから顔を出し、声が聞こえた方角に目を向ける。
 木のかわりに地面から巨大な石が生えている光景。その向こうに、今、もっとも見たくないふたつの人影が見えた。
「来い。遊んでやる」
 目を向けた方角――そこには、ルサとルカがやる気満々で仁王立ちしていた。