「これがお城?」
 「おうよ! マタンゴ族が誇る『マッシュ城』だ!」
  城と言っても、パンドーラやエリニースの城のような、人が作ったものとはまるで違う。
  元々空洞が多かった岩山をそのまま利用したらしく、あちこちに穴があり、マタンゴ達が出入りしている。
  朽ちて空洞化した巨大な木で小屋や物見台を作り、流れる川には落ち枝を組んで作った橋を渡している。通るのがキノコだから、これで十分なのだろう。
  水分をたっぷり含んだ土や木々は鮮やかな緑の苔に覆われ、踏むと靴越しに柔らかい感触が伝わってきた。
 「うわ~、おもしろーい! 家もちっちゃくてかわいいわね!」
 「お、さすがキノコの国! あちこちキノコ生えてるぞ!」
  さっきはお通夜のように泣いてたくせに。早くもそんなことは忘れたかのように、プリムとポポイは素直に感激してはしゃいでいた。
 「ところで……こいつはどうすれば?」
 「キュ~」
  肩にのしかかってくる白竜を押し返し、トリュフォーに確認する。
  木の小屋は無理だ。マタンゴサイズで、とても入らない。そもそも、入り口を通れるのか?
 「それに、いずれは大きくなるんでしょ? 飛ぶ練習もするようになるだろうし……それなりの広さがいると思うけど?」
 「そうだな……よし。オマエら、王の間に行ってロープ用意しろ。丈夫なヤツだぞ」
 『はっ!』
  トリュフォーの指示に、何匹かのマタンゴが、城の中へと姿を消す。
 「なにすんだ?」
 「来りゃわかる。こっちだ」
  城の入り口ではなく、城の壁沿いを案内される。
 「いいかげん自分で歩いて。歩けるでしょ?」
 「キュ?」
  いつの間にか、すっかりおとなしくなった。引きずるのをやめて先を歩くと、のしのしとついてくる。足を止めると、白竜も止まった。
 「なんか……あんたについてってない?」
 「え?」
 「なんでぇ。オマエのこと、親とでも思ってんのか? さっきまで暴れてたくせに、ゲンキンなヤツだな」
 「まあ……それならそれで、いいけど」
  頭をなでてやると、気持ちよさそうに目を細める。なつかれて悪い気はしない。
 「ところでだな。コイツの名前、『フラミー』はどうだ?」
 「え? 名前?」
  そういえば、考えてなかった。
  名前といえばポポイの時のこともあるし、もう少しちゃんと考えたほうがいいかもしれない。
  プリムもあごに指を当て、
 「そうねー、白いし……そもそも男の子なの? 女の子なの? ウチで飼ってた犬、マグノリアって名前だったの。お嫁に行っちゃったけど」
 「ウチはプッツィだったよ……雑種だし」
 「――ちょっと待った!」
 犬の名前にまで格差を感じていると、いきなりトリュフォーの待ったがかかった。
 「聞いたオレがバカだった! 考えてみりゃあ、別の名前にしようと言われて『ハイ、そーしましょう』なんてオレが言うわけなかった!」
 「えー! なんだよ勝手に!」
  つまりフラミーに決定。ポポイが不満げに口をとがらせるが、
 「じゃあ、お前ならなんてつけるの?」
 「え? う~ん……えーと……あー……『えもにゅー』とか『ぶにゅ』とか……」
 「フラミーでいいと思う」
 「私もそう思う」
 「よし決定」
 「あ! なんだよ!」
  約一名を除いて、賛成多数で可決した。
  トリュフォーの案内で、城の側面にあたる開けた場所へとたどり着く。
  見上げると、上はテラスになっているようで、突き出た岸壁に、石を積んで作った柵があった。
 「この上は王の間になってるんだ。で、国のモンに話をする時は、ここから話すわけだな」
 「へー……」
  どうりで広いわけだ。
  テラスの高さも、人間の背丈程度だが、マタンゴには十分なのだろう。
 「トリュフォー様!」
 「おお。準備出来てるか? ロープを下ろせ! 引っ張り上げるぞ!」
 「というか……」
  マタンゴ達が、用意したロープを下ろしてくれるが、フラミーに振り返ると、
 「ねえ。このくらいの高さなら、自力で登れない?」
  言葉が通じるとは思えないが、フラミーは小首を傾げ――
 「うわわっ!」
  テラスにいたマタンゴが、慌てて逃げ出す。
  やって欲しいことは伝わったらしい。フラミーは後ろ足で立ち上がると、テラスに手をかけ、翼をばたつかせながらよじ登った。