王よ。
私にとって、収容所での短い暮らしこそが安寧の世でした。
私を恨んでいるであろう者達から守られ、衣食住が与えられ、そして何より『自由』を奪われることで『罰せられている』『罪を償っている』という気分になれるのです。
王よ。あなたもそうだったのでしょうか?
あなたにとって、あなたの先祖が作った壁の中の世界は、あなたの心を安らげるための収容所だったのでしょうか?
だから何も出来なかったのでしょうか?
王よ。
収容所を出ることになり、私が真っ先に感じたのは『恐怖』でした。
『自由』とは、なんと恐ろしいものでしょうか。誰も守ってくれない。衣食住は自分で確保しなくてはならない。何もしなければ野垂れ死んでしまうのです。
誰も助けてくれない心細さ、一人の孤独、失う恐怖。
しかし、ふと思うのです。これこそが、本来の私なのだと。
御主人様に仕える犬でもなく、守られた家畜でもなく、言いつけを与えられるだけの奴隷でもなく、自由で無力な罪深き人間。
思えば、私は誰かから与えられるばかり、誰かが持っているものを欲しがるばかりでした。時に、奪うことさえありました。
最初から持っていたものなど、なにひとつなかった。あるとすれば、親から与えられた自分の命、ただひとつ。結局私は、自分一人では何も出来ない、無力な存在。
無知とは、なんと罪深きことでしょうか。私は、私を何一つわかっていなかった。
昔の私は、自分があなたに守られた存在であることにも気づかず、私があなたと、この世界をを守っているのだと思っていました。お恥ずかしい話、そのことを誇ってすらいたのです。
それがあなたを苦しめ、壁の中の小さな世界を滅びへ導いていることも知らずに。