王よ。
私の人生は、血で汚れたものでした。
心の弱い私は、すべてをあなたのため、壁の中の安寧のためと自己正当化し、その罪を、すべてあなたに背負わせることで、自分の罪から逃げ続けてきたのです。
しかし、それを許してくれたあなたはもういない。
その現実が私から逃避する言い訳を奪い、いかに私があなたに甘えていたのか、いかに私が、何も持たない、ちっぽけな人間かを思い知らせたのです。
ですが、私は幸運でした。
目の前に広がる、恐ろしい『自由』な世界。
その世界に、勇気を出して一歩踏み出したことで、代え難い友人を得ることが出来たのです。
その勇気を与えてくれたのは、かつての恐ろしい悪魔でした。
私が、何も知らず、何も考えぬ愚かな羊であれば、どんなに幸せだったでしょうか。
しかしその悪魔は、愚かな羊として生きていた私に、余計なことを色々と吹き込んでくれました。
殴られる痛みを。犯した罪の重さを。自分がしたことに対する責任の取り方を。世界の広さを。『自由』とは何かを。酒の本当のうまさを。
おかげで私は、幸せな羊だったあの頃へ、後戻りすることが出来なくなりました。
私は、罪深き『人間』になれたのです。
私は、一度はあなたと同じような選択をしようとしました。私を憎む誰かに、殺されてあげようと。
それが、散々奪い続けた私に出来る、唯一の償いなのだと。
しかし私は、誰からも何も奪われませんでした。それどころか、教えられたのです。
私が死んだところで、犯した罪が消えるわけではないことを。
これ以上、誰かに罪を肩代わりさせるなど、許されないのだということを。
結局私は、誰かのためでも、償いのためでもなく、私が楽になりたいがために、私のために『死んであげよう』としていただけでした。
私は、どんなに苦しくても生きなくてはならない。
ならばせめて、次の世代にこの罪が受け継がれることがないよう、この不幸な順番を断ち切れますように。
誰からも何も奪わず、ささやかなものであったとしても、何かを与えられる自分になれますように。
そうして生きていくことが、せめてもの償いになればと願います。
王よ。
あなたは、本当はどんな選択をし、どんな道を進みたかったのでしょうか?
どんなに考えたところで、私の勝手な推測でしかなく、わかる日は来ないでしょう。
しかし私は、これから、あなたが選べなかった選択をし、あなたが進むことの出来なかった道を進み、生きていきます。
〈了〉