「なんか騒がしいな」
森がざわめき、動物達が慌ただしくこちらを横切り、空でも、鳥が群れをなして飛んで行く。
「まさか……」
「どうしました?」
フィーネの問いには答えず、コーダは動物達が逃げてきた方角へと走り出し、クラウス達も慌てて後を追う。
「コーダ、あんた、何か知ってるのか?」
「話は後です」
クオンの問いも流し、今はただ、騒ぎの中心地へと急ぐ。
「うわっ!」
突然、茂みから白い何かが飛び出し、クラウスは足を滑らせ転倒する。
「はぁっ!」
すぐさまクオンが剣を抜き、容赦なく白い獣を斬り裂くと、獣はあっさり消滅する。
「今のは……」
「紋章師が創った獣ですね」
そう。すぐに斬ってしまったものの、今の獣は、夕べ襲われた黒の魔獣と同じく、体の中心に『紋章』を持つ獣だった。もっとも、大きさは猫くらいで、その姿は白かったが。
「なんで白の魔獣がこんな所にいるんだよ?」
「状況から考えて、クラウス、あなたの指輪ですよ」
「俺の?」
立ち上がり、服のホコリをはたき落としながらぼやくクラウスに、コーダは呆れた顔で言う。
「あの指輪が、どうしてです? 普通に身につけただけでは……」
フィーネも目をぱちくりさせるが、コーダはさらに森の奥へと歩を進め、仕方なしに、その後をついて行く。
その途中も、様々な姿・形をした白の魔獣が次々と襲いかかってきたが、フィーネの魔法が、コーダとクオンの剣が容赦なく仕留めて行く。
「数が多すぎる」
息を切らすクオンに、コーダは飛び出してきた猿形の魔獣を斬り、
「こうなったらクラウス、何か紋章を描いて――ああ、すいません。指輪がなければただのお子様でしたね」
「…………」
言いかけて途中で止めるコーダ(明らかにわざと)に、クラウスは軽い殺意を感じたが、本当のことなだけに何も言い返せない……
「指輪がなければポーン以下……」
クオンまでもがぼそりとつぶやき、クラウスは下唇を噛む。
クラウスにもわからないのだ。これまで、あの指輪をはずしたことがなかったので気づかなかったが、指輪がなくなったとたん、紋章も何も描けなくなってしまった。
紋章そのものは、そんなに複雑なものではない。覚えれば簡単に描けるはずなのに――なぜか、指が動かない。
指輪を失ったことが原因としか考えられなかった。
コーダとクオンは嫌味を言いつつも、それでもクラウスをガードする形で敵を斬り倒していく。
「な、なんか、俺一人だけ楽してるみたいで悪いな」
「仕方ないでしょう。指輪がないと何も出来ないんですから」
フィーネも、いつでもクラウスをガード出来るよう、周囲に注意を払いながら進む。
そして、
「……なんだあれ?」
前方に、真っ白な人影が見えた。
「まさか……ウェルタ?」
一瞬、誰なのかわからなかった。
少女の姿は白い光に包まれ、肌も、髪も、瞳も、服さえも白く輝いている。
ただ、その目には生気はなく、左手は垂れ下がり――掲げた右手の指先は、次々と紋章を描き出す。
「あー! 俺の指輪!」
その指にはめられた指輪に、クラウスは思わず声を上げる。
「やはり、指輪が暴走していたんですね」
「暴走ってどういうことだよ!? 俺、物心つく前からあの指輪してたけど、あんなこと一度もなかったぞ!?」
「それよりどうする!? これじゃあ話し合いも出来ない!」
こうしている間にも、クオンが襲い来る魔獣を斬り、フィーネも魔法で応戦する。
止めようにも、ウェルタ本人に意識がないのは明白だ。かといって、指輪をはずすには近づかなくてはならない。
コーダは、剣で獣を斬りながら、
「こうなっては仕方ありません。あの手を斬り落としましょう」
「ちょっと待てーーーーーーーーーーー!!」
さらりと言われ、クラウスの声が響く。
「さすがにそれはマズくないか!?」
「では、力尽きるまでがんばりますか? ああ、あなたは『我々が力尽きるまで見物する』が正しいですね」
「いや、そうじゃなくて! 他になんか方法は!?」
「あると思うのなら自分でお考え下さい」
「俺もコーダの意見が正しいと思うぞ」
クオンまでもがコーダに同意し、
「命までは取らん。ただ、右手を失うだけだ」
「いや、それでも、女の子だしさぁ……」
「――そうです! 女の子にとって、体の傷は一大事です!」
意外なことに、フィーネがクラウスに助け船を出した。
「確かに自業自得ではありますけど、正気に戻った時、右手がなくなっていれば、どれだけショックを受けるか……」
「おお……!」
その言葉に、クラウスは思わず感嘆の声を上げる。初めて、フィーネが僧侶っぽく見えた瞬間だった。
そして、
「こうすりゃ早いんです!」
――ゴッ!
「あ~れ~……」
フィーネが杖を掲げた瞬間、ウェルタの足下で爆発が起き、ウェルタは悲鳴を上げながら、二メートルほど吹っ飛んだ……
『鬼』
「斬るよりマシです!」
男三人に同時に言われ、フィーネは眉間にシワを寄せて怒鳴りつける。
「まあ、確かに右手を斬らずに済んだが……」
さすがに加減はしていたようだが、ウェルタは目を回し、あちこちすり傷だらけだったものの、元の姿に戻っていた。
「クラウス、早く指輪を」
「あ、ああ」
コーダに急かされ、しゃがんでウェルタの右手をつかむが、
「おい、やめろ!」
ウェルタの指はなおも動き、紋章を描こうとする。
なんとか指輪を抜き取ると、ようやくウェルタの手は地面に落ち、動きを止めた。
「はー……まったく、なんだったんだ?」
ため息をつくと、取り戻した自分の指輪をまじまじと眺める。
奪われた前と後で、特に変化があったようには見えない。恐る恐るはめてみるが――異常なし。
「――おい、コーダ。あんた、何を知っているんだ?」
「そうですよ。もしかして、女王様から何か聞いているのでは?」
振り返ると、クオンとフィーネ、二人に問いつめられ、コーダは困った顔をしていた。
「なんだ? なんの話だ?」
「そもそも、なんでクラウスが『ルーク』の指輪を持っていて、紋章師としての技術を持っているんです? おかしいじゃないですか」
フィーネの言うとおり、確かにおかしな話だった。
もっとも、クラウスがそのことに不思議を感じたのは、この三人と出会ってからだ。それまで、この指輪を持っていることも、紋章を描くことも、あまりに当たり前すぎて、気にもしなかった。
何しろ、これまで聞かれたことがなかったのだ。『お前、その指輪をどこで手に入れて、紋章のこともどこで知った?』と。
少なくとも、クラウスの周囲に紋章師がいたことはない。そしてクラウス自身、誰かにその技術を教わった記憶もない。
つまり、『紋章』を描けるわけがないのだ。そして不思議なことに、指輪を失ったとたん、これまで自在に描いていた『紋章』が描けなくなった。
それはすなわち――
「そうですね……確実に言えるのは、クラウスの指輪は特別製なんです」
「特別製?」
聞き返すと、コーダもどう説明するべきか、少し考え、
「――その指輪は、白の女王が創りし特別製。女王の、ありったけの力が込められている……」
そう答えたのは、コーダではなかった。
「何者!?」
身構えるフィーネには目もくれず、茂みの向こうから現れた人物は、真っ直ぐ、クラウスに顔を向ける。
――なんだ? コイツ……
その姿に、息を呑む。
全身をすっぽり覆い隠す灰色のマントを身にまとい、顔には白と黒、半々に分かれた仮面をつけている。
声でかろうじて男とわかったが、それ以外はまったくわからない。彼はこちらの前で足を止め、
「白の女王め……どうやら、チェックメイトする気になったようだな」
「なんの話だ?」
「私は、世界の秩序を守る者」
仮面の男はクラウスの問いには答えず、朗々(ろうろう)とした声で、
「『ボード』の上の『駒』が、誤ったマスに進まないようにするのが役目」
風が吹き、ザワザワと森がざわめく。
そしてクラウスは、隣のフィーネに、真顔で、
「あのオッサン、頭大丈夫か?」
「手遅れかもしれませんよ」
「お前達は白の女王の『駒』だ」
都合が悪いことは聞こえない構造の耳を持っているのか、男は二人を無視して、
「これ以上、マスを進ませるわけにはいかん。ここで引き返すがいい」
「お前……黒の国の者か?」
クオンは剣の柄に手をやり、コーダもクラウスとフィーネを後ろに下がらせる。
この男の目的が白の女王の邪魔なら、そう考えるのが自然だった。
しかし男は、小馬鹿にするように、
「人の話はちゃんと聞くものだぞ。言ったはずだ。私は、世界の秩序を守る者――」
言葉の途中で、突然、男の横から飛んできた石が仮面にぶつかる。
「――テメー! さっきはよくもやってくれたな!」
石が飛んできた方角に目をやると、いつの間に目を覚ましたのか、怒りで顔を真っ赤にしたウェルタが立っていた。
「ウェルタ! 大丈夫なのか?」
「それより、あれ!」
驚くクラウスに対し、フィーネは男を指さす。
石がぶつかった拍子に仮面がはずれ、素顔がさらされるが、男はそんなことはおかまいなしに、
「――世界の秩序を乱さぬためにも、白が勝つことも、黒が勝つこともあってはならない。戦は、続けられなければならない」
「…………」
男が何を言っているのかはよくわからなかったが、とりあえず確実なのは、
「紋章……?」
簡単に言うと、魔獣の人型と言ったところか。
本来、顔があるべき場所には『核』である紋章が輝き、黒い人の形をしていた。それにマントや仮面をつけ、人のフリをしていたのだ。
だが、紋章で創られたものは、基本的にしゃべることはおろか、細かいしぐさなどしない。別の場所にいる誰かが、人型を通じて意識を飛ばしているのだろうが、そんな芸当、並の紋章師に出来るわけがない。
「さっきから秩序だのなんだの、わけわからねぇことばっか言ってんじゃねぇ!」
しびれを切らしたのか、ウェルタの怒鳴り声が響く。
「戦争が終わると困る……ですか」
「そうだ。白と黒の戦は、この世界の宿命だ」
男はウェルタを無視し、コーダに目(?)を向け、
「戦が終われば世界も終わる。お前達は、白の女王が黒の王をチェックメイトし、世界を終わらせるために放った駒だ」
「ふざけるな!」
フィーネの怒鳴り声が響く。
「女王陛下は、両国の和平のために私達を遣わしたのだ! さっきから世界の終わりだのなんだの、訳のわからないことを言うな!」
毅然(きぜん)とした態度で、真っ向から男を否定するが、男はマントをひるがえし、
「そう思いたければ思うがいい。現実とは、残酷なものだよ」
「――待て!」
クラウスの指輪をはめた指がすばやく紋章を描き――生み出された純白の大きな鳥が、男目掛けて飛びかかる。
鳥のくちばしが、男に到達する寸前で、
「!?」
――ばしゅっ!
突然、人型をしていた黒い影が白い四つ足の獣へと変化し、その爪が、クラウスの鳥をあっさりと切り裂く。
言葉をなくすクラウスに、白い獣へと姿を変えた男は、悠然とした態度で、
「白の女王の血を引く者が、この程度か。これなら私が手を出さずとも、途中で野垂れ死にだな」
「え?」
聞き返す間もなく、その姿が薄れていく。
「今回は挨拶代わりだ。私はこれにして失礼する」
「あ! テメー、待ちやがれ!」
ウェルタの怒鳴り声が響くが、その言葉が終わる頃には、その白い姿は溶けるように消え去った。
「あー、チクショー! 結局、損しただけじゃねーか!」
「自業自得です! この盗っ人!」
騒ぐウェルタの頭に、フィーネが杖を振り下ろす。
「おい。さっきあいつ、女王の血がどうのとか言っていたな?」
騒ぎは無視して、クオンはコーダに目をやる。
クラウスがなぜ『ルーク』の指輪を持っているのか謎だったが、あの言葉の意味を考えると、答えは単純なものだった。
「あんた、知ってたのか? クラウスが女王の息子だってことを」
「…………」
コーダは、しばらく黙っていたが、
「……詳しい事情は知りません。ただ、アレイ村に、昔、やむなく手放した息子がいると、そうお聞きました」
「オマエら、なんの話してんだ? ――イデデデデッ!」
空気を読まないウェルタの頭を、フィーネが拳でえぐる。
「紋章師としての技術も、クラウスが身につけたというよりも、指輪そのものの力だったということか」
「そういうことでしょうね。ですが、指輪の力をコントロールするというのも、一種の能力かもしれませんが」
そこで会話が途切れ――フィーネとウェルタの騒ぎ声も途切れる。
なんとなく、気まずい空気が流れ――
「――なあ。女王ってどんな人だ? 元気にしてるのか?」
その空気を破ったのは、クラウスだった。
気をつかったとかそういうものではなく、単純に気になった――そんな感じだった。
コーダは少し考え、
「そうですね……聡明で、お優しく、とても美しい方です。もちろん、お元気にしていますよ」
「そっか」
クラウスはそれだけ返すと、それ以上は何も聞こうとはしなかった。
「……それにしても、さっきのはどうなっているんでしょう。黒かったものが、突然白くなりました。あんなの、見たことありません」
「そうですね……ウェルタでしたね? 何か知りませんか?」
「知るわけねーだろ! アタシは、そいつの指輪盗ってこいって言われただけなんだぞ!」
コーダの問いに、ウェルタはヤケクソ気味に怒鳴り、その態度にフィーネがウェルタの耳を引っ張る。
「ま、まあまあ。指輪も返ってきたし。それに俺、黒の魔獣に襲われてたのを助けてもらった借りがあるから、その辺にしてやれよ」
フィーネをなだめるクラウスに、ウェルタは目を丸くして、
「オマエ、まだンなこと言ってるのか? ……あんなの、自作自演に決まってんだろ」
「そうなのか!?」
「当たり前だ! 魔法もなんも使えないアタシが、あんなもん一撃でどうにか出来るわけねーだろ!」
目を丸くして驚くクラウスに、ウェルタは腹を抱えてバカ笑いする。
「だが、出身が黒の国というのは確かなようだな」
と、ウェルタの背後に回ったクオンが、ひょいっ、と、その左手を持ち上げる。
小指には、『ポーン』を示す白い指輪をはめていたが――どうやら、上から何かを塗っていたらしい。塗装がはげて、下の黒い金属が見えた。
「…………」
一瞬、気まずい沈黙が流れたが、ウェルタはクオンの手を払いのけると、
「だからなんだってんだ! どこにいようが、アタシの勝手だ!」
「なぜ白の国に? 何か理由でもないと、わざわざ住みにくい土地に来ることなどないはずだ」
にらみつけるクオンを、ウェルタも負けじとにらみ返し、
「……アタシの住んでた村は、白の国の連中に滅ぼされたんだ。親兄弟はもちろん、友達も、知ってる人も、一人残らず死んじまった」
「…………」
「他に行くアテもないからね。どうせ野垂れ死ぬんなら、いっそ、白の国ってのがどんだけ邪悪な国か、見ておこうと思っただけさ」
「邪悪……」
ウェルタの話に、フィーネが目を伏せる。
確かにウェルタにしてみれば、白の国とは家族の仇だ。恨まれても仕方がない。
「それで、実際に白の国に来て、どうでしたか?」
「…………」
コーダの問いに、ウェルタは少し考え、
「確かに、何から何まで真っ白けでヘンな国ではあるけど……どこも違わない」
そう言って、しばらく地面をにらみつけるが――突然地面を踏みつけると、
「どこも違わねーじゃねーか! 悪人もいりゃあ親切なヤツもいるし、バカなヤツもいるけど、そんなの黒の国だって同じだ。指輪の色は違うけど、こんなもん、はずしちまえばみんな同じ……どこが違うんだ!? なんで戦争してるんだ!?」
これまでため込んだものを一気に吐き出すように怒鳴り、抜き取った自分の指輪を地面に叩きつける。
なぜ戦争しているのか。そんなこと、誰も知らない。
もしかすると当たり前になりすぎて、誰も気にしなくなったのかもしれない。
「――あ、そーか」
唐突に、クラウスが声を上げる。
全員の視線が集まる中、クラウスは気楽な笑顔で、
「きっと女王も、ウェルタと同じこと考えて……戦争に意味がないって気づいて、だからやめようと思ったんじゃないのか?」
そののんきな言葉に――全員、ため息をつく。
「あなたの脳天気は知ってますけど、どうやら末期症状のようですね」
「なんだよそれ!?」
フィーネの言葉に怒鳴り返しながら、ウェルタの指輪を拾う。爪でこすると塗装は簡単にはがれ落ち、本来の黒い指輪が姿を現した。
「へー。黒い指輪なんて初めて見た。カッコいーな、これ」
「…………」
黒い指輪を日にかざし、無邪気に笑うクラウスに、ウェルタは目を点にする。
そして、
「あ……アホか! こんなヤツが白の女王の息子だって!? バカバカしい!」
怒鳴りながら、クラウスから黒い指輪を奪い取ると、
「あぶなっかしくて見てらんないよ! おい、オマエら、黒の国に向かってるんだろ? アタシも行ってやるよ」
突然の申し出に、全員目をぱちくりさせるが、ウェルタは指輪をはめながら、
「黒の国のことなんて知らねーだろ。案内くらいしてやるよ」
そう言い放つと、返事も待たずに歩き出す。
フィーネはぽかんとしていたが、すぐに顔を赤くし、
「な、なんですその図々しさは!? あなたみたいな盗っ人、誰が――」
「……だが確かに、黒の国のことは俺達もよく知らない」
クオンが、ぽつりとつぶやく。
当然ながら、白の国と黒の国とは交流がない。たどり着いたとしても、こちらの常識が通用しないこともあるだろう。そうなると、怪しまれる危険もある。
コーダもひとつうなずき、
「そうですね。一人くらい、彼女のような人がいてもいいんじゃないですか?」
「そうかもしれませんけどぉ……」
渋るフィーネに、コーダはさらに、
「第一、我々が反対したって、上の者がOKしたら、下の者は従わざるを得ないんですよ」
コーダが指さした先――そこには、先に行くウェルタと、
「なあなあ、黒の国ってどんなトコだ? やっぱり服とか建物とか黒いのか? 白だと汚れた時目立って大変だなーとか思うんだけど、そっちはそんなことないのか?」
クラウスが興味津々といった様子で、ウェルタの後を追っていた。
「ク、クラウス……!」
もはや、反対するだけ無駄なのは明白だった。
コーダもフィーネを横切り、二人の後を追いながら、
「もしかすると未来の王かもしれませんし。今のうちに恩を売っておけば、老後は安泰ですよ」
「…………」
コーダに続き、クオンもクラウス達の後を追う。
「未来の王……」
つぶやき、フィーネは、しばしぽつんと突っ立っていたが――
「じょ、冗談じゃありません! あんなお子様の下に仕えるなんて……私は認めません! 絶対に認めません!」
誰にともなく怒鳴りながら、慌てて走り出した。