それからも私は、定期的に牧場の仕事や子育てを夫に任せ、傷ついた人達の話を聞いて回った。
「私、イェーガー派だったんです」
そう告白してきたのは、若い女性だった。元は兵士だったそうだが、今は壁の崩壊の被害者達の支援活動に参加しているという。
「地鳴らしが発動して……『これで世界に勝ったんだ』って、みんなで喜んだんです。勝利のためなら、これでみんなが助かるなら、多少の犠牲は仕方ないって。でも……帰ってきたら、お父さんも、弟も妹も、みんな死んでて……お母さんも歩けなくなってて……」
次第に、声が小さく、歯切れが悪くなっていく。
「せめてお母さんだけでもと、姉と一緒に世話してたんですけど、どこかで知っちゃったみたいなんです。私がイェーガー派だったって。『よくも私の家族を殺してくれたな』『お前だけが死ねばよかったのに』って……そう私宛ての手紙を残して、母は自殺しました。姉からも『お前のせいだ!』って絶縁されました」
その目からは、完全に生気が抜けていた。
「私は家族のために戦っているって、そう信じていました。だけど、その家族がみんないなくなってしまった。しかも母や姉にとって、私はもう家族ですらなく、憎い『敵』でしかなかった。『敵』は、島の外にいると思っていたのに、私が『敵』だったんですよ? 私は一体……何と戦ったんでしょうか?」
私は彼女を否定することも、慰めることも出来なかった。その資格がなかった。
「……何が正しいかなんてわからない。少なくとも、その時は……『正しい』と思った選択をしたんでしょう?」
「あなたは? あなたは、どんな選択をしたんですか?」
彼女の目に、かすかな生気が宿る。
『怒り』だ。
女王である私への、怒りだ。
「私は……『選択しない』選択をした。だから今、死ぬほど後悔してる」
次行った時、彼女はいなかった。自殺したという。『死んでお詫びします』という姉への手紙を残して。
呼ばれた姉は、その場で手紙を破り捨て、遺体の受け取りも拒否したらしい。
……死んで許される罪などあるのだろうか?
彼女は、最後の最後まで『正しい』選択をしたのだろうか?
私が、『選択』の後押しをしてしまったのだろうか?
――そんな『正しさ』はクソだ!
ユミルの言葉が脳裏をよぎる。
みんながみんな、『正しい』選択をしようとしていた。
だけど、『正しさ』なんてクソだった。
『正しい』選択も、『後悔しない』選択も出来なかった私は、もっと『クソ』だ。
私が、ちゃんと選択をしていれば。
かつて、『私は女王様だ』と人のことを殴っといて、なんだこの体たらくは? この惨状を、あの人が知ったら?
「蹴られちゃうな……」
帰りの馬車の中で、巨人よりも恐ろしい、かつての上官のことをなんとなく思い出した。