世界一の悪い子 後編 - 4/4

 娘が三歳の誕生日を迎えた頃だった。
 こっそり会いに来たキヨミさんによって、アルミン達やリヴァイ兵長の生存と、ハンジさんの死を知った。
 どうして、あの人が死ななきゃいけなかったんだろう。私なんかより、よっぽど人類のために心臓を捧げていたのに。
 私に『巨人継承する』と言わせてしまったことを悔やみ、それを阻止するために走り回ってくれた。
 私が勝手に言ったのに。
 ……そうだ。私はただ『立派な女王さま』になりたかっただけなんだ。そのために、未来の私の子供を巻き込んでしまった。
 私の自己満足が、みんなを苦しめ、追い詰めた。
 だけど私は、自分の裏切りを告白することも、謝ることすらも許されない。
 私は、一生みんなをだまして生きていく。

 ついにアルミン達と再会した時、リヴァイ兵長はいなかった。
 『そっちから来い』というなんともありがたい伝言に、背筋が寒くなった。ああ、あの人は、やはり私に厳しい。何が出てくるかわからない、恐ろしい『柵の外』に出て来いだなんて。
 だけど、もし私が柵の外に出て行くことが出来れば――彼の元にたどり着けるほど、島と世界の距離を縮めることが出来れば――『殴られた甲斐があった』くらいは言ってくれるだろうか?
 この場にいなくたって、あの人はずっと私を見ている。
 死んで行った仲間達も、残された者達も、みんなが私を見ている。
 私が何をするのか。私に何が出来るのか。
 幾千、幾万――数え切れない人々が、やさしい笑みを浮かべながら、恐ろしく冷たい目で私をにらみつけている。
 死んでも、死ななくても、どうせ許されないのだ。ならば、やるだけのことをひたすらやるしかない。
 私には、もはやそれしか選択肢がないのだから。
 『その時』は来た。
 『敵しかいない』と言われていたはずの島の外から、心強い援軍もやってきた。
 ユミルの言ったとおりだった。私は一人じゃない。
 私が女王さまとして、島に、世界に受け入れてもらえないことには、何も始まらない。
 どんなに石を投げられようと、私は花を投げ返してやるの。
 見ていて、ユミル。

 そして私達は、まずはエレンのお墓参りに行った。
 自分でも、どうしてなのかわからない。
 なぜそうしたのかわからない。
 もしかすると、ユミルが言っていた『クソみてぇな正しさ』への宣戦布告だったのかもしれない。
 エレンの墓を見た瞬間、私は無の境地で墓石に駆け寄り――思い切り蹴飛ばしていた。
 小さな墓石は弧を描いて空中を舞った――とまではいかなかったけど、斜面をゴロンゴロンと転がり落ちていき、ミカサの悲鳴が響いた。
 私は墓石に追撃をかけようとしたが、転んでそこまでとなった。
 右足を捻挫した。
 医者からは、全治二週間と診断された。
 こんなの全然痛くないや!

〈了〉