娘が三歳の誕生日を迎えた頃だった。
こっそり会いに来たキヨミさんによって、アルミン達やリヴァイ兵長の生存と、ハンジさんの死を知った。
どうして、あの人が死ななきゃいけなかったんだろう。私なんかより、よっぽど人類のために心臓を捧げていたのに。
私に『巨人継承する』と言わせてしまったことを悔やみ、それを阻止するために走り回ってくれた。
私が勝手に言ったのに。
……そうだ。私はただ『立派な女王さま』になりたかっただけなんだ。そのために、未来の私の子供を巻き込んでしまった。
私の自己満足が、みんなを苦しめ、追い詰めた。
だけど私は、自分の裏切りを告白することも、謝ることすらも許されない。
私は、一生みんなをだまして生きていく。
ついにアルミン達と再会した時、リヴァイ兵長はいなかった。
『そっちから来い』というなんともありがたい伝言に、背筋が寒くなった。ああ、あの人は、やはり私に厳しい。何が出てくるかわからない、恐ろしい『柵の外』に出て来いだなんて。
だけど、もし私が柵の外に出て行くことが出来れば――彼の元にたどり着けるほど、島と世界の距離を縮めることが出来れば――『殴られた甲斐があった』くらいは言ってくれるだろうか?
この場にいなくたって、あの人はずっと私を見ている。
死んで行った仲間達も、残された者達も、みんなが私を見ている。
私が何をするのか。私に何が出来るのか。
幾千、幾万――数え切れない人々が、やさしい笑みを浮かべながら、恐ろしく冷たい目で私をにらみつけている。
死んでも、死ななくても、どうせ許されないのだ。ならば、やるだけのことをひたすらやるしかない。
私には、もはやそれしか選択肢がないのだから。
『その時』は来た。
『敵しかいない』と言われていたはずの島の外から、心強い援軍もやってきた。
ユミルの言ったとおりだった。私は一人じゃない。
私が女王さまとして、島に、世界に受け入れてもらえないことには、何も始まらない。
どんなに石を投げられようと、私は花を投げ返してやるの。
見ていて、ユミル。
そして私達は、まずはエレンのお墓参りに行った。
自分でも、どうしてなのかわからない。
なぜそうしたのかわからない。
もしかすると、ユミルが言っていた『クソみてぇな正しさ』への宣戦布告だったのかもしれない。
エレンの墓を見た瞬間、私は無の境地で墓石に駆け寄り――思い切り蹴飛ばしていた。
小さな墓石は弧を描いて空中を舞った――とまではいかなかったけど、斜面をゴロンゴロンと転がり落ちていき、ミカサの悲鳴が響いた。
私は墓石に追撃をかけようとしたが、転んでそこまでとなった。
右足を捻挫した。
医者からは、全治二週間と診断された。
こんなの全然痛くないや!
〈了〉